第30話

 サザーヌの街に着いたのは王都を出発して三日後のことだ。

 この辺りは南と言ってもまだ暖かいくらいで過ごしやすい。早速宿を取って、師匠が言っていた錬金術士のもとへ向かう。



「ここが錬金術士の住まい……ですか」


 ソニア様が意外そうに言う。王都にいるときに調べたのだが、錬金術士の家というのは「アトリエ」といって、錬金術に使う素材や器具、完成品が所狭しと並んでおり、家兼仕事場になっているという。

 だが、目の前にあるのは一見すると本当にただのレンガ造りの一軒家だ。特に周りの家に比べて特別大きいというわけでもない。


「まあ、ここで立ち尽くしていてもしょうがないし、呼び鈴を鳴らしてみるか」


 と、代表して俺が呼び鈴を鳴らす。すると、家の中からドタバタと足音がして、ドアがバタン! と音を立てて開いた。


「はい! どなたかお呼びでしょうか!?」


 明るい茶髪をポニーテールに纏めた女性が出てきて大きな声で言った。返したのはソニア様で、

 

「あ、すみません。ここに住んでいらっしゃる錬金術士様を訪ねて来たのですが」


 と言うと、ポニーテールの女性は


「あぁー! ドレイクさんから連絡のあった方たちですね! 聞いていたより人数が多いみたいですが……。あ、私はケミィ。錬金術士です! まぁまぁ、とりあえず中へどうぞ!」


 と俺たちを招き入れる。ドレイクさん? と一瞬思ったがそういえば地龍のことをドレイクっていうんだっけ。つまり師匠が何らかの手段でこの女性に連絡を取ったらしい。さすがは師匠、そつがない。

 普段は褒めない師匠のことを珍しく心の中で褒めながら、俺たちは招かれた家の中に入った。



 中に入ると、外観よりずっと広く感じる。色々な素材や器具、完成品と思わしき物が多数置かれており、想像していた通りのアトリエである。


「外で見ていたより広く感じるね! なんでだろう?」


 とピピンが無邪気に言う。するとケミィが、


「そうでしょうそうでしょう! なにせここはこの私が作ったアトリエなのですから!」


 と言い、


「作ったぁ!?」


 とみんなの声が重なる。家まで作れるのか、錬金術士ってのは。


「ふふん、普通の錬金術士には無理でしょうとも! しかし! 私は超すごい錬金術士! 見た目より広い家の一つや二つ、作れてしまうんですよ!」


「おおーー」


 パチパチパチパチ。誰もが雰囲気に乗せられて拍手をしている。

 あ、そうだ、雰囲気に流されて忘れるところだった。


「これ、師匠からの紹介状なんですけど……」


 と紹介状をケミィに渡す。ケミィは受け取った紹介状をサクッと読み終えると、


「なるほど、これは私の出番のようですね!」


 と言った。すごいハイテンションな人だなぁ。



「魔宝石同士を錬金して魔宝石の魔力量を増やす、ですか。まあ一般的な錬金術ですけど、一年火を灯し続けるのって結構膨大な魔力量が必要になりますよ? つまり使う魔宝石の量もかなりのものですけど持ってます?」


 ここで一同顔を見合わせる。魔宝石は色々な入手方法があって、ソニア様と出会う前に俺がしていたように採掘する方法もあれば、魔物からのドロップを狙う方法もある。

 あの時の魔宝石は実はまだ俺の収納袋の中に残っているし、もしかしたら『ヴィーナス』も魔物を倒して手に入れたものがあるかもしれない。だが、それでも一年間使い続けるとなるとまだ量が足りないことだろう。

 となると、さらに足すか、それとも……


「いや、別の物を錬金しよう」


 と俺は言った。


「別の物ですか?」


 これはケミィだけでなくみんなピンと来ていない様子。


「ああ。俺は【採取】スキルで空気中の魔力を集めることができる。この間すごい量の魔力を集めたんだけど、そのときわかったのが、魔力は血に溶けるってことだ」


 ここまで言うとだいたいの人はピンと来たようであるが続ける。


「つまり、限界まで魔力を溜め込んだ俺の血を錬金の素材として使えば良いんじゃないか?」


「なるほどなるほど! それは面白い考えですね! 是非やってみましょう!」


「超すごい錬金術士」のケミィからしてもやってみる価値はあるみたいだ。なら、いっちょやってみるか。

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