第29話
ダイニーの街を出て王都に着くまでの三日間、『ヴィーナス』による俺への戦闘指南が続いた。
移動しながら座学、休憩時間中は実戦訓練、たまに魔物と戦ったりと忙しい期間だったなあ。
「何となくで剣を振らない! さっき教えたでしょ!」
とか、
「また足が止まってるわよ〜! ほら、避けながら攻撃!」
とか、結構スパルタ教育な四人なのだった。
それだけ教えてもらってもさすがに三日間では身につくことはなかったのだが、ソニア様がポツンと
「経験とかも採取できると良いのですが……なんて」
と言った。それをヒントに、まずは自分のスキルから経験の採取ができないか確かめてみることにした。
そもそも「スキル」とは何なのか。何故存在するのか。俺は考えたこともなかったが、過去にはそれを考えた人もいたそうだ。
曰く、スキルとは人類の集合知であり先人たちが残した経験の集合体なのではないか、人類がより良く発展するために存在しているのではないか、と。その割には魔物もスキルを持っていたりするわけで、全面的に支持はできないけれども、真理の一部ではあるのではないだろうか。
今回はそれに賭けて、スキルから知識と経験を採取することを試みた。
すると、確かにこれまで剣を振ってきた達人たちの、あるいは魔法を使ってきた賢人たちの経験が頭に流れ込んでくる。だがあまりにも量が多い。多すぎる。そこで記憶はストップしている。後から聞いた話では、俺はその場に立ち尽くした後、気絶したらしい。
だが、目覚めたあと剣を振ると、魔法を使おうとすると、明らかにスムーズに扱うことができた。今まではなんとなくで使っていたものが少し扱い方を理解し始めた。言葉にすればただそれだけだが、実際には天と地の差だ。零と一では大きく違う。その言葉の意味を理解した気になった出来事であった。
王都に着くと、元々王都で活動していた『ヴィーナス』とはここで別れる。
短い間ではあったが、楽しい旅路だったし、最後には戦闘の指南もしてもらった。まあ戦闘の指南は三日ほどだったのだけれど。
「まだねぇ〜」
と泣きながら言うピピンと、
「じゃあね〜」
と笑顔で言う他のメンバー。寂しくなるな。
人数を約半分に減らした俺たち。旅の準備時間も半分になる……と思いきや、片や北行きで準備を万端にしていた元祖メンバー、片や旅を始めたばかりで消耗品も減らしていないリサと、元々ほとんど準備のいらないメンバーであったため、半分どころか食料の買い足しくらいしかする準備がなかった。
とはいえ休む時間は必要なので、王都で一泊して次の日に出発することになる。
ということで俺たちは宿泊兼お互いの状況報告で王城へ行く。着いた時刻に国王陛下はちょうどお客さんの対応が入っていたらしく、面会には宛てがわれた部屋での小一時間の待機を挟んだ。
陛下の準備が整うと案内係が部屋に来て、応接間に案内される。
ゲンム山での出来事を報告すると、
「マンドラゴラを手に入れたか! よくやったぞ!」
と陛下からお褒めの言葉を預かる。医者も薬師も安心したようだ。
あとは不死鳥の炎について、手に入れる方法を陛下の耳にお入れしておく。
「そうか、目処は立っておるか。不死鳥とはほぼ確実に戦闘になるだろう。私からも諸君への援軍を用意してある。明日、王都の南門で落ち合うとよかろう」
援軍か。ありがたい。正直、五人で伝説級の生物と戦うのはなかなか厳しいものがありそうだからな。
今度は陛下からご家族の容態について伺う。不幸中の幸いにして、ダルン病の進行は遅く、まだ命に関わるほどになっている方はいらっしゃらないようだ。ただゆっくりでも確実に病は進行している。俺たちに立ち止まっている時間は無いことを再確認して、面会は終わった。
翌朝。出発のため王都の南門に向かうと、見知った四人組がいた。
「あれ、『ヴィーナス』も何処かに行くのか?」
と不思議になって聞いてみると、向こうも不思議そうに、
「あれ? 国王陛下から聞いてない?」
と返してくる。このタイミングで国王陛下というと……
「プ、プラチナランクの冒険者である私たちが援軍だよ!」
と、昨日泣き別れたばかりだからか恥ずかしそうなピピンが言う。なんでも、昨日国王陛下が迎えていた客というのが『ヴィーナス』だったらしい。
そうか、これは頼もしい援軍だな。元々各々プラチナランクの実力があるうえミスリルランクの俺の両親の指導を受けてパワーアップした四人だ。実力に関しては申し分ないし、お互いのことをわかっている。
強力な援軍を得た俺たちは優秀な錬金術士がいるというサザーヌの街へと出発したのだった。
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