第28話

 王都への帰り道。俺たちはダイニーの街にある魔法研究所に立ち寄っていた。不死鳥の炎を持ち運ぶ方法について相談するためだ。



 街の中心地である魔法研究所に着くと、うちのパーティーの魔法使いであるルージュと、『ヴィーナス』の魔法担当であるクレナが


「ここがあの魔法研究所なのね〜」


 と言って意気投合していた。性格も似ているようだし、二人は馬が合うのかもしれないな。


 

 研究所に入って、受付で前回も世話になったリサを呼んでもらう。

 リサはすぐにやってきて、


「お、お待たせしました! わ、私に何か御用でしょうか?」


 と、「お待たせ」してないのに言った。

 あまり他に聞かせていい話だとは思えなかったので、リサの研究室に上がらせてもらって、そこで事の次第を説明する。


「――――というわけで、不死鳥の炎を絶やさないようにしたいんだけど……」


「な、なるほどです! それでしたら、ソウヤさんのお師匠様の言う通り、錬金ですごい魔宝石を作るのが良いと思いますよ。あとは魔道具にする方法なのですが、こちらは部外秘になるのでお教えすることはできません」


「えっ、それじゃあ……」


 と思わず口を挟んでしまう。だがリサは続けて、


「あ、いえ! ご心配なさらず! 魔道具化については私がさせていただきますので! ですので私を一緒に連れて行っていただけますか?」


 おっと、それはありがたい申し出だ。

 師匠の知り合いの錬金術士がいるサザーヌの街があるのはここから王都を挟んでさらに南に行ったところだ。つまり魔宝石を錬金したあと、またここに戻ってこないといけないと思っていたのだ。

 だが、リサが着いてきて魔道具化をしてくれるのなら、そのままストレートでシュザックの丘まで向かうことができ、だいぶ旅程の短縮になる。

 時間が限られた旅でその短縮はありがたいのだ。


「だけど良いのか? リサさんもここでの仕事があるんじゃ……」


「うーん、まあ、そうなんですけどね。でも私たちは困っている人の力になるために魔法の研究をしているのです。なら、目の前で困っているソニア様たちの力になるのが、今私のやるべきことなんです」


 そうか、リサも心の中に熱いものを持って仕事をしているようだ。格好いいな。

 それに……とリサは続ける。


「わ、私自身、魔法使いとしてそういった冒険に憧れていた時期もありますし! 今でもちょっとやってみたいなって!」


 ……だいぶ個人的な思いもあるようだ。まあ力になってくれるというなら良い……のか?


「それなら、よろしくお願いしますね。私たちの力になってください」


 とソニア様がその場を締めた。



 リサの旅支度を待つ間、俺たちは研究所の中の演習場にやってきていた。実は、対人戦に不安があることを『ヴィーナス』に相談したところ、実践形式で指南してくれることになったのだ。

『ヴィーナス』は前衛二人、後衛二人のバランスのとれたパーティーだ。ルファとヒナが剣士、ピピンが弓使い、クレナが魔法使いである。



 まず、剣士の二人と戦ってみる。

 こちらは草薙剣を持った本気モードだ。なのに、こちらの攻撃が一切当たらない。

 採取系のスキルが効果を発揮していないとはいえ、【草薙剣】の「剣の扱いがとても上手くなる」効果は発揮されているはず。それでもルファもヒナもこちらの攻撃を躱し、あるいは往なす。

 攻撃が当たらないことに俺が焦りを覚え始めたころ、


「やめっ!」


 と戦いを止められてしまった。


「くそっ!」


 思わず感情が口に出る。すると、


「戦いの最中に冷静さを欠いちゃ駄目だよ。最初は良かったのに、だんだん動きが単調になってったよ」


 とヒナ。そして、


「なんか、スキルに頼りきった剣術って感じだった。確かに最初はすごいって思ったけど、動きに幅がないというか」


 とルファ。

 なるほどな。しかし、俺は【草薙剣】を手に入れるまで、剣とは無縁の生活をしていたのだ。身体はスキルによって動くが、頭では剣の振り方なんて理解していない。

 それを正直に伝えると、


「トウヤさんの息子なのにもったいない! この間トウヤさんに教えてもらったこと、今度はウチらがソウヤに教えてあげる!」


 とルファが言ってくれる。父さんの剣技を他人から教わるなんて変な感覚だな。だが、申し出は嬉しい限りだったので、素直に受けることにした。



 次に後衛の二人とも戦った。

 今度は魔力に任せて魔法を滅多撃ちにしたのだが、こちらも一切当たりはしなかった。逆に足が止まっているところをピピンの先の丸まった矢で打たれてボロ負けだ。


「なんか雑じゃない? もうちょっと戦い方ってのを学んだ方がいいと思う!」


 とピピン。


「魔法が無限に撃てるのは羨ましいけどねぇ〜。自分も動きながら相手に当てるくらいの練習はした方が良いと思うわ〜」


 とクレナ。だいぶボコボコに言われてるな。

 こちらもやはり、


「アオイさんの息子さんなのに勿体ないわね〜。私がアオイさんに教わったこと、教えてあげるわね〜」


 と、母さんの技術を他人から教わることになった。

 あれ、俺って「採取屋」だよな? 魔法剣士として食ってくわけじゃないよな? と思いつつ、それからの旅で指導を受けることになった。



 ちなみにリサの準備は結構前に終わっていて、だいぶ待たせていたのだった。

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