第27話

 錬金術士はあとで探すとして、ここであと成すべきことはマンドラゴラの採取である。

 さっそく師匠にマンドラゴラのもとへと案内してもらう。やはりでかいキノコだ。大きいものは人間の身の丈程もあるぞ。

 色的にはオレンジの傘に白い柄という特に変わった特徴のない色をしている。これならまあ、口に入れても問題なさそうだ。見た目だけで判断するのは危ないかもしれないけど。


「どうした、早く抜け」


 もう、帰るなと言ったり早くしろと言ったり忙しい師匠だな。とっとと抜いて帰るか。


 

 うんとこしょっと引っ張ってみるが抜ける様子はない。


「すみません師匠、俺を後ろから引っ張ってもらえますか?」

 

「情けないな。まあ良いだろう」


 どっこいしょと二人がかりで引っ張るがまだ抜けそうにない。


「流石に戦いの後で疲れているな。すまんがそこの槍使いよ、俺を後ろから引っ張ってくれ」


 アズールも加わって、うんとこしょ、どっこいしょと引っ張るが、まだまだマンドラゴラは抜けない。



 最終的にその場にいる全員が俺の後ろについてようやく一本抜くことができた。一本抜くことができたということは今の俺にかかれば五本手に入るということだ。

 師匠がそのマンドラゴラを見て


「お、おい、これはどうなっている!? こんなにハリのあるマンドラゴラは見たことがないぞ!?」


 というので、研究用に二本ほど渡し、もう一本抜くことになった。まあ元々数は足りなかったので仕方がない。後で腰に来るぞ、これは。



 ふう。二本目も抜き終わり、手元には八本のマンドラゴラが残った。


「いや、一本目も三対二の割合だったから今回もそうすべきだ」


 などと言う師匠の言葉は……。うん、まあ色々教えてくれたし二本あげるか。



 改めて、六本のマンドラゴラを入手した俺たちは、いよいよ南へと旅立つことになる。


「師匠、錬金術士に心当たりはありませんか?」


 と一応聞くと、マンドラゴラで気を良くしたのか、


「ああ、シュザックの丘に向かうのだったか。途中でサザーヌという街に寄ると良い。そこに優れた錬金術士がいるだろうよ」


 と気前よく教えてくれた。

 それにしても普段この洞窟に引き篭っているくせにいつの間にそんな情報を得たのだろう。


「俺の古くからの知り合いだ。なんなら紹介状を書いてやろう。少し待ってろ」


 師匠の古くからの知り合いって、まさか龍じゃないだろうな、と変な勘ぐりを入れるが、まあ優秀な錬金術士ならば人だろうが龍だろうが良いか。

 師匠は外見に似合わず達筆な字でさらさらと紹介状を書いてくれた。ここまでしてくれるなんて、余程機嫌が良いんだな。感謝感謝だ。



 さて、名残惜しいが本当にそろそろ出発しなければ。師匠には色々世話になったな。今度また珍しい素材を持って手伝いに来よう。


「師匠、色々とありがとうございました。また色々教えてください」


「ふん、土産の分を返しただけだ。今度来るときはもっと良い土産を持ってこい」


 と師匠が照れ隠しのように言う。このドラゴン、もしかして可愛いか? いや、ないない。



 師匠と別れた俺たちはゲンム山を下山し、ノーソン村に戻った。

 実家に戻ると母さんに、


「ちゃんとお土産は渡したの? お手伝いはした?」


 と問い詰められたので、はぐらかしておいた。いや、土産は渡したけど手伝いはしてないしな。



 一晩泊まったあと、早速南方への旅路に着く。『ヴィーナス』のメンバーも俺の両親との交流は終わったようで、帰りも同行することになった。

 行きと同じように賑やかな旅の中で、話は自然とお互いが何をしていたかということになる。

 俺たちの話が終わった後、『ヴィーナス』の話が始まる。



 俺たちと別れた後、『ヴィーナス』のメンバーは俺の両親から戦い方を学んでいたらしい。

『双翼』と呼ばれていた俺の両親。父さんは剣と盾を持ち前衛として無類の強さを誇り、母さんは魔法使いとして攻撃から支援までこなすオールラウンダーだった。二人から教わることは多かったようで、


「今ならミスリルランクにもなれそうだよ!」


 とはピピンの言葉。実際にその実力を見る機会はなかったが、有名人に会った興奮が手助けしている部分はあるんだろうな。

 まあパーティー全員がミスリルランクへの昇級を目指す意欲に繋がったそうなので、ノーソン村に来て良かったのだろう。

 そんな『ヴィーナス』のメンバーたちと共に、俺たちはまず王都に帰るのだった。

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