第26話

「おい、なぜこっちに撃ってこない」


 と師匠が苛立ちを隠さずに言う。俺は

 

「無用な殺生はしない主義なので」


 と返す。これは冗談半分真面目半分だ。いくら師匠が龍とはいえ、天を裂くほどのエネルギーを受け止めきれるかはわからない。それに……


「それに、目的は達成されましたから」


「む? 目的?」


 自分で言っといて忘れたんかい。


「無事【採取☆☆☆☆】に成長させることができました。ありがとうございます」


 そう、師匠が言った言葉で「集めるもの」という原点に立ち戻った結果、俺のスキルは成長した。ちゃんと【スキル閲覧】で確認したから間違いない。

 これでマンドラゴラを採取できる。そして、五倍ということはあともう一段階の成長でスキリの花を六輪採取できるということでもある。目標に近づいている実感がしてとても嬉しいことだ。



「で、マンドラゴラの特殊な採取法って何なんですか?」


 ようやくここにたどり着いたぞ。師匠を訪ねたら簡単に手に入ると思ったのに、まさか師匠と戦うことになるなんてなあ。うーむ、となぜか渋ったあと、師匠が言う。


「教えられんなぁ」


「は?」


 全員の声が重なる。ここに来てまさかの展開だ。


「どういうことですか? ソウヤ様は【採取☆☆☆☆】を獲得したのですよ?」


 そうですソニア様、もっと言ってやってください。

 師匠はなぜなら……と続ける。


「そんなものは、ない!」


「どういうことですか!?」


 あんなに頑張ったのに!?


「あれはお前に【採取】スキルの本質を思い出させるための嘘だ。普通に採取しても乾燥させれば一年以上もつとも」


 くっそ騙されたぁあああ! ガチで戦っちまったじゃないか! てか、半分は自分が久しぶりに戦いたいからだろ!



 はあ、はあ……四半時間ほど怒り続けてようやく落ち着いた。

 もうマンドラゴラをいただいてさっさと帰るとしよう。と思ったがそういえば不死鳥のことを教えてもらう約束だったな。


「はぁ、もう不死鳥の情報とマンドラゴラをください。それで帰りますから」


「えっ、もう帰るのか……?」


 おい、いきなりそんな可哀想になる言い方をするんじゃない。帰りづらいだろうが。


「ならば不死鳥の話をたっぷり聞かせてやろう」


 たっぷりしてくれるならたっぷり聞くけどさ。


 

「不死鳥は真に不死なのではない。死んでも同じ個体として蘇るために不死鳥というのだ。奴の身体は炎そのもの。火が消えても火種から蘇りまた燃え盛るのだ」


 へえ、身体が炎そのものなのか。つまり、不死鳥の炎を得るということは、身体を少しわけてくれと言うに等しいわけだ。

 

「なら、どうやってその炎を採取すれば良いんですか?」


 ナイス質問だアズール。そう、身体が炎そのものであるのならば、生きているうちにわけてもらわねばなるまい。だが、生きているうちに身体をわけてくれというのはなぁ。それに、炎を維持する方法も必要である。


「簡単だ。炎である以上、燃え移ることに変わりはない。故に、魔宝石に炎を移せば良い」


「魔宝石に、ですか。でも魔宝石って燃えるんですか?」


「普通に燃やしても燃えんがな、魔道具にすれば燃える」


 ああ、そういえばそんな話を以前聞いたな。あれはたしか王都の魔法研究所だったか。結局魔道具を作る方法については企業秘密だといって教えてもらえなかったが。


「しかし魔力が尽きては結局燃え尽きてしまうのではないかと思うのだけれど……」


 ルージュが尤もな質問をする。


「炎が絶えないように移し続ければいいではないか」


 あるいは……と言って師匠は他の方法を語り出す。


「錬金だ」


「錬金?」


 またもや全員の声が重なる。錬金……聞き慣れない言葉だ。


「錬金とは、【錬金術】というスキルを使って複数のアイテム同士を融合させることを言う」


 ほう。


「魔力含有量が少ない魔宝石でも十個二十個と混ぜればそれなりの魔宝石になろう」


 ほうほう。

 つまりは、魔宝石に魔宝石を混ぜたり、魔力含有量が高い素材を混ぜたりすれば高い魔力含有量を持つ魔宝石ができる、と。



 それを聞いて、俺はある方法を思いついた。

 だがその方法を実行するためには、まず【錬金術】スキルを持つ協力者を探さなくてはな。

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