第23話
ここはノーソン村。ボッカ王国の北の果てにある平和な村。そして今俺たちがいるのは――――俺の実家である。
「よお、ソウヤ! 暫く見ないうちに大きくなったんじゃねえか?」
というのは俺の父、トウヤだ。
「そんなわけないだろ!? まだ一ヶ月とかしか経ってないのに!」
という会話をしていると向こうでは
「あらあらあらあら! こんなにたくさんべっぴんさんを連れてきて! 誰が彼女さんなのかしら?」
と恐ろしいことを言っている。母、アオイである。
そこ、全員で満更でもない顔をしない。母さんが誤解するだろう。
「みんな俺にはもったいない人たちだよ! そんなんじゃないって!」
だから揃って残念そうな顔をするな!
さて、改めて、ここは俺の実家である。両親に加え九人入っても狭く感じない広い家だ。なんでこんな立派な家を辺境の村に作ったのかは知らないが、今回はそれが吉と出たようだ。……俺にとっては凶かもしれないが。
俺たち九人がここにいるのはちゃんと訳がある。『ヴィーナス』の四人は元々ここが目的地だし、俺たち五人は不死鳥のことを聞きに来たのだ。なんせ元は最高峰の冒険者。不死鳥のことも知っているかもしれないからな。マンドラゴラ? 師匠に頼めばくれるんじゃないか? 多分。
それはピピンが
「なんでお二人はここに腰を落ち着けたんですか?」
と聞いたことがきっかけだった。父さんが、
「因縁の相手がいたんだよ」
と答える。その話は聞いたことがないな。
「因縁の相手? 聞いたことないけど」
「そうか、話したことなかったな。あれはお前がまだ生まれる前のことだ」
父さんの回想が始まる。
「ソウヤが生まれる五年前。まだ俺たちが現役だった頃のことだ。俺たちはある依頼を受けてここにやって来た」
「ある依頼?」
「龍の討伐だ。この地域に龍が現れたとの報告があってな。当時この国で最強だった俺たちが派遣されたんだ」
この地域で龍って、まさか……
「まさか、地龍か?」
「なんだ、知ってんのか? まあいい。その地龍と俺たちは戦って、結果お互いに深手を負った」
「それで冒険者を続けられなくなり、ここに住んでいる……」
ヒナが残念そうに言う。まあ、憧れてきた身からすればショックだよな。
「いや、そういうわけでもないんだな。お互いの怪我は地龍が作った回復薬で治った。んで、地龍と話したら、暴れるつもりは元からなかったんだとよ。だから相互不可侵って約束で手を打った。でもそれを上は気に入らなかったらしくてな。地龍が死ぬまで見張ってろってさ。そんで今までここに住んでるってわけだ」
はぁ……、両親らしいし師匠らしいな。このエピソード。
しかしまさか両親と師匠が知り合いだったとはなぁ。
今度は俺が師匠との出会いの話をすると、両親はとても驚いて、
「「お前 (あなた) が、地龍の弟子!?」」
と言っていた。素直に驚く両親の姿はなんだか面白かった。
俺が話し始めてしまったので、そのままこの旅の目的を話す流れになった。『ヴィーナス』の面々には申し訳ないがここは少し譲ってもらおう。
「――――ってことでさ。今はマンドラゴラと不死鳥の炎を求めて旅をしてるんだよ」
これには両親だけではなく『ヴィーナス』も驚いた顔をしている。
プラチナランクやミスリルランクの冒険者ともなれば聞いたことがあるかもしれないと思ったが……。
「すまん、名前は知ってるんだがな。詳細までは……」
と申し訳なさそうな父さん。
「私たちも……」
「知らないわね〜」
とこちらも申し訳なさそうに『ヴィーナス』。
そこで口を開いたのが母さんだった。
「それなら、地龍の方が詳しいのではないかしら?」
「え、師匠が?」
ってそうか、師匠は……
「龍はそもそも長命で知識が豊富な種族。中でもあの地龍は薬作りの名人よ。幻のような材料についても何か知っていると思うわ」
みんなの顔が明るくなる。
でも……と母さんは続ける。
「久しぶりにお師匠様のお宅に行くのに何も持っていかないなんてことはないわよね?」
と圧力のある声で迫られる。
「あぁ、それなら、これを持っていくつもりだよ」
そう言って俺は熊の魔物から入手したあれを見せる。
「師匠ならきっと喜ぶはずだ! と、思う……。」
多分な!
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