第21話
エルフの森からノーソンの村に行くには一度王都に戻る必要がある。その帰り道、
「ソウヤの師匠ってどんな人?」
とアッシュが聞いてきた。なんでも、王国の影であるアッシュたちは毒や薬作りにも精通しているらしい。そこで、俺の師匠にも興味を持ったようだ。とはいえアッシュたちは俺の回復薬を見たことがなかったはずだけど。
「王都に帰ってきた騎士たちが噂してた。ソウヤが作った回復薬を飲んだら傷が治るだけじゃなくて元気が湧いてきたって。そんなのかなり上級の回復薬じゃないとありえないから作った人は相当優秀。その師匠ならもっとすごい」
おう、いつも静かなアッシュが饒舌になってる。そこまでなのか。まあ隠すことでもないので師匠についてみんなに話そうか。
俺が成人する直前。十五歳の時だな。あの頃は採取屋の開店に向けて採取場所の開拓と資金が必要で、ノーソン村の周りから活動範囲を広げていた。
もちろんゲンム山にも足を運んで上質な鉱石を採取していた。でも一所で満足できなくなって、だんだん上の方まで登るようになっていったんだ。
ある日、山頂付近まで登った俺は、山の山頂付近なのに草木が生い茂る不思議な場所を発見した。そしてそこに生えているのが効果の高い薬草やら滋養強壮に良い植物ばかりだったから採取しようとしたんだ。するとどこからか強い圧力を感じて、気絶してしまった。
目を覚ますと、ジメッとした洞窟の中にいるようだった。そこには大きなキノコがたくさん生えていて、またよくわからない本でいっぱいの本棚と瓶詰めにされたこれまたよくわからない薬が並んでいた。
今考えてみればそのキノコこそがマンドラゴラだったんだな。でも当時の俺はそれに気づくべくもなかった。
しばらくわけもわからずボーッとしていたら、浅黒く体格の良い男が近づいてきた。男は名も名乗らず、
「ふん、貴様、面白い力を持っているようだな。だが俺の植物園に手を出すのは許さん。動けるまで休ませてやったのだから早く帰れ」
と突き放すように言った。
当時の俺がそれを聞いて何を思ったのかは覚えてない。でも、師匠の声には不思議と温かみがあったような、そんな気がする。だから、
「俺に、薬作りを教えてください」
と唐突に言ってしまったんだ。当然、
「は?」
と師匠は少し怒ったような声で言った。そりゃそうだ。突然現れた小僧が、突然弟子にしろって言い出したんだから。だけど、
「まあ、いい。教えることは何も無いが、勝手に見て学べ。だが材料は自分で、俺の植物園以外から採ってこい」
と、意外とあっさり許可がもらえたんだよな。
それからは採取の隙を見てそこに足を運んでは薬作りの勉強をした。本を読んで学ぶことも多かったけど、師匠の薬作りを実際に見て真似するのが一番勉強になった。
師匠は手際良く、かつ丁寧に工程をこなす。俺は不器用なりにその真似をして何とか薬を作る。通う度に薬作りが上手くなって、師匠はその度に
「フン、少しはマシになってきたな。だがまだまだ甘い」
と、アドバイスをくれる。
そんな良い師匠だったんだけどな。
まさか山の山頂付近の誰も知らない植物園に便りを出すわけにもいかないし、ノーソン村を出てから連絡も取ってないんだよな。はぁ、怒られるかなぁ。怒られるよなぁ。はぁ。
そんな話をみんなに聞かせると、反応は様々で、
「確かに龍は長命で知識に優れていると聞くけれど……」
とルージュ。
「そこまで人間に味方する龍は珍しいというか……」
とアズール。
「自分で植物を育てて研究してる? すごい」
とアッシュ。
そしてソニア様は、
「さすがはソウヤ様、お師匠様もすごい方だったんですね」
……うん。そうですね。少し温かい気持ちになった。
王都に帰り着くと、早速北行きの準備を進める。今回は山に登るので、食料のみではなく登山道具も必要だ。俺は元々あるからいいが、他のメンバーは買い揃えねばならない。そうやって準備を進める俺たちに話しかけてくる人たちがいた。
「こんにちは! これから北行きですか?」
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