第20話
宴の翌日。俺たちはシシトウに呼ばれ、里長の家に来ていた。
「マンドラゴラと不死鳥についてお教えします」
とシシトウ。ありがたいが、宝物をもらったうえでさらにお願いを聞いてもらっていいのだろうか。ソニア様も同様に思ったらしくシシトウに尋ねていたが、シシトウ曰く
「あなた方が行ったのはそれほどの偉業なのです。物語の中にしか出てこないような化け物を討伐するなんて、常人にはできません。永く生きるエルフでも見たことがあるのはハイエルフであるフルール様くらいでしょう。それを見て、さらには参加もできたのです。皆様には感謝と敬意しかありませんよ」
とのことだ。そこまで言われたらもう受け取るしかあるまい。
ということでマンドラゴラと不死鳥についての話を聞くことにする。説明はフルールとシシトウだ。
「マンドラゴラを育てているドレイクがいるのはボッカ王国の北方、ゲンム山よ」
「えっゲンム山って……。ノーソン村の近くじゃないか!」
ゲンム山といえば、俺がよく鉱石を掘りに行っていた場所だ。そんなに近くにいたのか……。
「そう、ゲンム山の近くには人間の村があるのね。でもドレイクの住処に行くには山頂付近まで上がったあと、そこにある入口から洞窟の中を下りる必要があるの。だから接触することはまずないと思うわ」
「あ、俺そこ行ったことあります。というか、薬作りの師匠がそこに住んでるんですけど……。もしかして?」
「え? あ、えーと、確かにドレイクは薬作りがとても上手いと聞いているけど……。弟子を取るなんて話は聞いたことがないわ。でももしかしたらその師匠がドレイクかもしれないわね。龍が人化するのは珍しい話ではないのだし」
そうなのか……。師匠、龍だったのか。
「し、師匠? どういうことか飲み込めないのですが……」
ソニア様の言葉にその場にいるほとんどが頷く。そういえば話したことなかったっけ。
「以前ミノタウロスと戦ったときに特薬草から回復薬を作ったことがあったじゃないですか。あれの作り方を教えてくれたのが師匠なんですよ。頑なに名前を教えてくれなかったけど、まさか龍だったなんて」
「へ、へぇー」
なんか顔が引き攣ってるな。説明してなかったから怒らせてしまったかな?
「ではマンドラゴラに関しては大丈夫そうですね。不死鳥についてですが、不死鳥はボッカ王国の南にあるシュザックの丘に生息しています。性格はそこまで攻撃的というわけではありませんが、流石にタダで炎を譲ってくれはしないでしょう。また、炎をどう持ち帰るかも考える必要があるかと」
なるほど。確実に戦闘があるわけではなさそうだ。
それよりもやっかいなのは炎の保存方法というわけか。うーむ、簡単には行かなさそうだ。
「二人ともありがとう。そういえば、王都からここまで来るのに地図を作りながら来たんだが、情報のお礼として受け取ってくれないか?」
と地図を広げながら渡す。
「私たちはあまり森から出ないから残念ながら必要ないわね……ってえぇーー!?」
こっちがびっくりするくらいの驚き方をしたな。見れば声は発さないながらもシシトウもかなり驚いているようだ。
「こんな、こんな詳細な地図どうやって作ったのよ!」
首根っこを掴んで揺さぶりながら聞くな。答えられん。
フルールが落ち着くまでたっぷり揺さぶられてクラクラしたがやっと解放されたので事の次第を説明する。
「【採取】ってこんなことにも役に立つのね……。とんだ万能スキルじゃない」
呆れ顔でフルールが言う。続けて、
「森の外の地図は要らないけど、森の中のこういう地図があったら便利ね」
と言ってきたので、その日はみんなで森の中を散歩して地図作りに勤しんだ。
魔猪がいなくなって動物や魔物も戻ってきたみたいだったので、ついでに狩りで競い合いもした。一位は流石のハイエルフ、フルール。最下位は俺だ。ま、まあ周りは狩猟を生業とするエルフと王国の最精鋭の人たちだし? 俺だけ地図作りながらだったし? しょうがないよね!
その次の日、エルフの里を出発することになった。名残惜しいしエルフの魔法を教わったりしたかったのだが、こちらはこちらで期限がある身。再び訪れることを約束して別れる。
「うぐっ……。絶対にまた来なさいよね……」
と泣きながら見送るフルールの姿が印象的だった。
さーて、先に目指すは師匠がいるゲンム山だ!
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