第18話

 魔猪との戦いの最中、逃げたはずのハイエルフのフルールが現れた。


「こっちよ!」


 というのでなんの疑いもなく着いていく。


 ただ直線での速さは魔猪の方が上だ。ゆえに波を描くようにウネウネと蛇行して走る。巨体は曲がるのが難しいので、これで時間を稼ぎながらなんとか逃げる。

 フルールが逃げた方向に走っていくと、森の中の開けた場所に出た。


「こっち、こっち!」


 なんと逃げたはずのエルフが泥だらけの姿で勢揃いしている。ああ、なるほど。やったことはわかった。きっと落とし穴を掘ったのだろう。あとは俺たちが落ちないか、そして魔猪がはまるかである。



 誘導されるがままに走る、走る。全力でのダッシュが続き息が上がるが我慢してなお走る。


 ドスン!


 という音がしたので振り返ると……


 魔猪は落とし穴にはまりきっていない。穴の深さが浅かったようで、今にも穴から出てこようとしている。

 俺は魔猪に近づいて【採取】を発動する。

 今回の対象は魔猪自身ではなく、その下、地面だ。

 地面から土を採取、上にいた魔猪は落とし穴にしっかりはまり、上半身だけ出ている状態になった。


「行っけーーー!!」


 ここしかない。俺は自分が出せる最大火力を込め、大鎚を魔猪の頭に振り下ろした。



 魔猪が塵へと変わっていく。遺されたのは肉、牙、毛皮、そして一振の大鎚だった。


「――――――――――!!」


 どこからともなく歓声があがる。魔猪はそれだけ手強い相手だったのだ。なんせハイエルフのフルールが伝説級の魔物と言ったくらいだしな。


「やりましたね」


「やったわね」


「やった」


 と仲間から口々に声をかけられる。


「ああ、やったな」


 と、俺はそれだけを言い残して意識を失った。



 目を覚ますと、ここ一週間見慣れた天井が見えた。ここはエルフの里の宿か。

 一瞬なんでここにいるのかわからなくなったが……


「そうか、魔猪を倒した後疲れすぎて倒れたんだっけ」


「そうですよ」


「そうよ」


「そう」


 と、いつの間にやら部屋に入ってきていた仲間たち。


「心配かけて申し訳ない」


 こういうときは素直に謝っておくものだ。

 うん、体はもう充分動くな。なら後処理の手伝いでもしに行こうか。

 みんなを連れて外に出ると、後処理が終わっているどころか宴が始まっていた。食べや飲み、歌いや踊りの大盛り上がりだ。

 食べ物は猪からドロップした肉が相当量あったのと、俺が一週間森で採取してきた野菜や果物が出されているようだ。飲み物は酒じゃなくてこれも俺が泉から採ってきた水だ。

 あれ、俺って意外と長い時間気を失ってた?

 そんな考えが顔に出ていたのか、


「エルフの魔法がすごくて。皆さんの魔法であっという間に準備ができてしまったのです」


 とアズールが言う。

 そうか。時間があればここで魔法のことを色々教わるのも楽しそうだな。


「おっ英雄殿の登場だぁ!」


 英雄って……。とどめを刺したのは俺だけど、みんなで戦った結果の勝利だし、エルフだって落とし穴を掘ってくれたじゃないか。


「女性をあんなに引き連れて……。流石だなあ」


 おい、この人たちはそういうんじゃないぞ。

 すみませんと言おうと後ろを向くと、満更でもない顔をしている女性陣がいた。……うん、見なかったことにしよう。



 宴をしばらく楽しんでいると、フルールがやって来た。


「お疲れ様。どう? 楽しんでる?」


「ああ、楽しませてもらってるよ」


 それからしばらく世間話をしていたが、ふと思い出したことがあったので聞いてみる。


「そういえば、この里でスキルを確かめられるエルフはいるのか?」


「ええ、エルフは人間より神に近いから、ほとんどのエルフは確かめられるわよ。なんなら今確かめてあげましょうか?」


「ああ、頼むよ」


 そうしていつも通りスキルを確かめてもらうと、


「何よこれーーー!?」


 そうか、それが自然な反応だよな。スキルがいっぱいあるし。普段動揺しない神父たちはどういう精神をしているんだろうな。


「ちょ、ちょっと待っててね、物を持ってくるわ!」



 フルールがそう言って四半時間ほど。今度はシシトウも一緒に戻ってくる。二人はそれぞれ大きな巻物を持っているがなんだろうか。


「これらはエルフに伝わる宝なのだけど、あなたにあげるわ」


「えっと、これらはどういう物なんだ?ただの巻物にしか見えないけど……」


「多分あなたなら見たらわかると思うわ」


 そう言われたので巻物を広げてみると……

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