第15話

 エルフの里に着くと、まずは里長の家に案内された。

 今回の使節団の代表はソニア様なので、こちら側は基本的にソニア様が話すことになる。

 

「驚きました。まさか森の中にこんなに立派な里ができているなんて」


「ええ、全部魔法で作ってるのよ。ちょちょいのちょいっとね」


「へ、へえ、ちょちょいのちょい、ですか」


 やけにテンションの高いフルールにソニア様は押され気味だ。


 んんっ、と咳払いするシシトウ。


「それで、何用でこちらに?見たところただの観光客というわけではなさそうですが……」


「あ、はい、実は……」


 とソニア様。事のあらましを説明する。さすがの説明力であり、ものの数分でフルールとシシトウは状況を理解したようだ。


「つまり、マンドラゴラと不死鳥について教えてほしい、と」


「ええ、そうです」


「そうですか……」

 

「良いわy……」


 肯定しかけたフルールの口をシシトウが強引に塞ぐ。

 

「フルール様は少し考えてから発言なさいませ。しかしタダというのは困りますね」


 やはりそうなるか。ここまでの地図は持ってきたが森からあまり出ないエルフがそうそう使うとは思えないし……他に何かあっただろうか?


「そちらの困り事を解決させていただきます」


 そうきたか。だがそれは……


「現在困り事などはございません」


 と言われれば困るのである。


「であれば、少しの間こちらに滞在させていただけますか?」


「ええ、それは構いませんよ。ですね、フルール様?」


 口を開かないままこくこくと頷くフルール。なんだか面白い人だなぁ。



 用意してもらった宿に帰ってパーティーメンバーで作戦会議をする。


「ソニア様、エルフに出した交換条件ですが……」


 とアズールが問えば、

 

「ええ、人間なら一週間も暮らせば困り事のひとつも出てこようもの。エルフだって同じでしょう?」


 とソニア様。

 一週間もかけるつもりなのか。家族が辛い思いをしている時にそうやって長い目で物事を見れるのはすごいことだ。


「ですが出てこなかったら?」


 今度はルージュ。


「一週間で別の物を用意しましょう。ソウヤ様、お願いします」


「! 俺ですか?」


「ソウヤ様なら【採取】の力で質の高いものをたくさん用意できます。うってつけです」


 冷静に持ち駒が見えている。この方はどこまで……


「異論はありませんか? ではその通りに。それまではアズール、ルージュ、アッシュはこの里で普通に過ごしなさい」


「「「はっ」」」


 そうして一週間。三人娘は村で依頼探し。俺は森で色々な物を採取していた。

 薬草、果実、木材と、森で手に入りそうなものは大概手に入れた。手に入れたものは三分の一は王都へのお土産に回すことにし、残りをエルフたちに提供し、とても喜ばれた。

 ただ、なんだかこの森、違和感があるような気がしていた。自分でも上手く言葉にできなかったのだが、あるときエルフの一人がこぼした言葉でそれが何かわかった。


「近頃は狩猟の成果が悪くてね。あんまり肉が取れないんだよ」


 それを聞いて、違和感の正体に気づく。

 確かに、探知魔法で探してもこの森全体に動物が少ないのだ。まるで何かを恐れて逃げてしまったか隠れてしまっているかのように。

 たしか、冒険者だった両親が言っていた。こういった普段とは違う環境が見えた時には気をつけなさいと。



 すぐにソニア様たちやシシトウたちに忠告するために里長の家に急ぐ。ちょうど今日これから再びの交渉があるはずだ。みんなそこにいるはず。

 里長の家に着くと、シシトウが出迎える。


「そんなに急いで、どうかなさいましたか?」


 切れた息を整えながら俺の考察を話す。


「つまり、これからこの森に異変が起きると? なるほど、一考の価値はありそうです」



 通された部屋にはソニア様と三人娘、フルールがいた。

 俺が事情を説明すると、確かに、三人娘が聞く依頼も肉が取れない、肉が欲しい、というのが多かったらしい。

 そういった陳情はちょうど一ヶ月ほど前から続いているようだ。

 一ヶ月か。いつ異変が起きてもおかしくはなさそうだ。


「動物がいなくなる、ということは強大な何かが現れるというのが一番ありえそうですが……」


 とシシトウが言った途端、強烈な寒気が全身を襲った。と同時に、


 ドドーーーーン!!


 という音が森に鳴り響いたのだった。

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