第14話

 馬車で一週間の旅。長いようで短いようで、微妙な期間である。

 だが、一週間もあれば体がなまってしまうのは必至で。



 というわけで、俺は一週間実戦形式の訓練を重ねた。アズール、ルージュ、アッシュとそれぞれ一体一で戦うというシンプルな方法だ。ちょうど、俺の能力を見せたいというのもあったしな。


 

 アズール相手にはなかなか苦戦した。槍はリーチが長く、槍使いの懐に入るには苦労させられたものだ。だから、最終的に【遠隔採取】で槍を取り上げるまでせねばならなかった。反則もいいところだが、勝つためにはそうするしかなかった。アズールは槍の達人らしい。

 


 一方で、ルージュとアッシュには苦戦しなかった。

 ルージュは魔法、アッシュは投げナイフが基本の攻撃手段だったため、飛んできたものを採取してしまえばいいからだ。まあこれも反則のようなものだが、直接持っているものを取り上げているわけではないのでまだ良い方だろう。アッシュとの戦いでは採取ついでに【投合】スキルを獲得した。



 移動中に行うのは訓練だけではない。水場を見つけては馬を休ませたり、自分たちが休んだりする。

 水場を見つけるのは俺の役目。探知魔法で水を探知できるのは俺だけだからな。

 周囲の監視も基本的に俺の役目。まさか女性陣と一緒に水浴びなんてできるはずもない。女性陣が汗を流している間の警戒は俺がせねばならない。

 水を汲むのも俺の役目。なんていったって水場で瓶を持って【採取】を使うだけで瓶が綺麗な水で満たされるのだから。【採取】は水に含まれる不純物を取り除いてくれるらしい。これができるのは【採取】と【遠隔採取】を持つ俺だけ。



 ……あれ?俺の役目多くない!?

 まあ水場関係に限ったことであって、馬の世話とか夜の見張り番とか料理とかは交代でやっているからな。うん。少しくらい仕事が多くても文句は言わない。

 ついでに地図も二枚ずつ作らされているが気にしない。一枚はお土産としてエルフに渡すそうだ。もう一枚は王国で使う用。



 そうして一路エルフの里に向かっていると、大きな森が見えてきた。


「あれがエルフの里があるという森、クルオロの森か」


「ええ、エルフの魔法、どんなものかしら。楽しみね」


 と、魔法使いのルージュは興奮している様子だ。


 事前情報では、エルフは特に人間嫌いな種族ではなく、むしろ友好的だという。ではなぜ森に暮らしているかというと、彼らは元々森に住む精霊だったから、そして今は森と泉の守護者だからだ。



 精霊。スピリットとも言う。万物に宿る意思を持った魔力の塊で、生物よりは神に近いと言われている。その性質ゆえに一般の生物からは認識できず、【魔法】スキルを持つものの内特に優れている者のみが若干感じ取れる、くらいのものだ。

 その精霊が住む森が、強大な魔物に荒らされたことがあった。森の半分は焼失し、泉は濁り、精霊たちは行き場をなくした。

 ある時、そこに人間の狩人たちがやって来た。狩人たちは武器と魔法を使い、魔物と死闘を繰り広げ、ついには打ち倒した。

 狩人のうち、魔法を使う者はとても優秀で、精霊の存在を感じることができたため、破壊されてしまった森をその生涯を使って再興したという。

 彼らの姿に感謝と憧れを持った精霊たちは、人間の姿を真似た形をとるようになり、狩猟と魔法の民族となった。

 これが、エルフの誕生秘話であるそうだ。


 

 この物語は絵本になり王国でもよく読まれている。俺も小さい頃よく読んでもらったなあ。

 意識を現実に戻すと、森がもうすぐそこまで迫っていた。

 しかし森の中をあてもなく彷徨うわけにはいかない。どうしたもんかと話し合っていると、森の中から人影が現れた。


「こんにちは。人間。か、歓迎してあげなくもないけど、どうする?うちの里に寄ってく?」


 ……なんか歓迎されてるのかされてないのかわかんないぞ。エルフは友好的だったのでは?


「はぁ……フルール様、そんな言い方しちゃダメですよ。改めまして皆様、ようこそクルオロの森へ。歓迎致します。私はシシトウ。エルフの里長をやっております。こちらはフルール様。我々エルフを束ねるハイエルフです」


 うん、まともだ。というかめちゃめちゃ丁寧だ。

 えっと、先に話しかけてきた銀髪の女性エルフがハイエルフのフルール、後の薄緑の髪の男性エルフがシシトウ、と。


「それで、どうするの?来るの?」


 と、急かすように、そして来てほしそうにフルールが言う。こちらとしてはもちろん行かせてもらう。全員で頷き合い、エルフの里に向かって歩き出した。

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