第12話

 王都に着くと、俺たちは脇目も振らず王城に直行した。もちろん、王妃様たちの容態を気にしてのことだ。ソニア様としては、一刻も早く容態を確認したいところだろう。

 ところが……



「何者だ!貴様!」


 まず城の入口で止められた。ソニア様や騎士たちがいても止められるのか。


「この方は私がお呼びしました。通してください」


「はっ、申し訳ございません!」


 まあそういう仕事だし、仕方ないか。

 通り過ぎた後で後ろから、


「まさかソニア様を脅して言わせているわけではないよな……?」


 と聞こえてきたが気のせいとしておこう。


 

「貴様、何者だ!」


 城内に入ったところで今度は貴族らしき人物に呼び止められる。

 またかよ……。

 再びソニア様が通すよう言うも、


「ソニア様!?まさかこやつに脅されて……」


 今度は直接言われた。俺ってそんなに信用ならない見た目をしているかなぁ。

 もうめんどくさいので城の中庭で花でも摘んで【採取】の効果を見せることにした。



「おお、これは……」


「まさか本当に見つけて来られるとは……」


 一輪の花を摘んで三輪手にしている俺を見て集まった人々が声を上げる。


「いやしかし三倍か……」


 そうだな。現状は三倍だ。だが……


「彼のスキルは成長するのです。私は彼に賭けたいと思います」


 ソニア様がそう言ってくれる。その期待には応えねばなるまい。

 そんなこんなで俺の存在は認められ、ソニア様の家族の下へと案内されるのだった。



「久しぶりね、ソニア……」


 まずやって来たのは王妃様の部屋だ。王妃様はソニア様そっくりで……ん?ソニア様が王妃様そっくりなのか?まぁどちらでもいい。姉妹と言われても疑わないだろう。

 

「お久しぶりです、お母様。お加減はいかがですか」


「酷いものね……。もう一歩歩くのも大変だわ……」


「そんな……」


 母子の痛ましい会話が交わされる。


「もう少し、もう少し頑張ってくださいませ。ここに【採取】スキルを持つ方をお連れしました」


 話を振られたので名乗ると、王妃様の顔が少し明るくなる。


「そう、良い人を見つけたわね……。ソウヤ様、ソニアのことをお願いしますね」


 ……うん?何か違う話になってないか?


「さあ、長話は疲れてしまうわ。またね、ソニア」


 と、強引に話を切られ、退室させられてしまった。



 その後他の方の所へも挨拶に回ったが、誰も似たり寄ったりの病状だった。特に、まだ幼い第三王子と第三王女がぐったりしていたのは見ていてとても辛いものがあった。早く治して差し上げないとな。



 全員に挨拶し終わると、ちょうど王様が面会の準備を終えたという。家族に会いたいだろうところ申し訳ないが、今後のためにも話しておきたい。



 面会は謁見の間で行われた。集まったのは国王、ソニア様、俺、王家お抱えの医師と薬師の五人だけ。それでも広くて豪華な謁見の間を使うのは、王家の面子ゆえか、それとももてなしの心なのか。

 国王陛下は話に聞くとおり体格が良く、カリスマというか、雰囲気のある方だった。


「そなたが【採取】スキルを持つ者か。遠いところご苦労である」


 陛下がおっしゃるので、緊張しながらも

 

「はい、ノーソン村から参りましたソウヤと申します」


 と返す。この辺りはまあ挨拶なので余程無礼がない限り大丈夫だろう。

 

「【採取】の効果については私どもも見させていただきました。今はまだ三倍ですが今後成長するとか……?」


 医師の確認。まあそこは心配だろうが、


「村にいた頃は二倍でした」


 おおっ、という声が上がる。問題は……


「成長は一年後までに間に合うのか?」


 さすがは陛下。そう、そこだ。俺は生まれつき持った【採取】スキルを六歳の頃からの十二年間、「採取の効果を二倍にする」ものだと思っていた。すなわち、その間スキルは成長していなかったのだ。これをどう捉えるかだが……


「間に合わせてみせます。必ず」


「根拠はあるのだろうな」


 くっ、陛下の圧がすごいな。家族の無事がかかっているのだから当然か。だが俺だって【採取】と十八年付き合ってきたんだ。自分のスキルのことは自分でよくわかる。こいつは……


「【採取】スキルは戦闘によって成長するものと思われます。三倍の効果になったのは初めて魔物を討伐したときです。なので、これから戦闘を重ねれば近いうちにまた効果が上がるかと」


「ふむ、ならばまずはエルフの里に向かってくれまいか」


「エルフの里ですか?」


「うむ」


 ここからは私が、と薬師が話を引き継ぐ。


「エルフとは森に住み、狩猟と魔法を得意とする民族です。彼らは非常に長命で、広く深い知識を持っているとされます。実は、ダルン病のことをさらに調べたところ、スキリの花だけでは薬の材料として不十分だということがわかったのですが、他の材料がどこにあるかがわからないのです」


 だけどね、と今度は医師が引き継いだ。

 

「材料を手に入れるのがものすごく大変だということだけはわかるんだよ。なんせ必要なのはマンドラゴラと不死鳥の炎だからね」


「マンドラゴラ?不死鳥?」


「マンドラゴラはね、ドレイクという地龍が大切に育てている植物なんだよ。つまり手に入れるにはドラゴンをどうにかしなければならないんだ。不死鳥はその名の通り殺しても蘇る、燃える不死の鳥なんだがその炎をどうやって持って帰るのかさっぱりわからないんだよね」


 ……つまりどっちも戦いになるからそれで経験を積めってことか。ここまで来たら乗りかかった船だ。やってやる!

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