第11話
ダイニーの街で一日過ごして明くる朝、王都に向けて出発する。
ここから王都までは二日の道のりになる。必要な物資は昨日一日で騎士たちが揃えてくれた。いつもお疲れ様です。
なんだかんだ言いながら道中もソニア様による魔法講座は続けられた。
例えば、移動に役立つ魔法に探知魔法がある。自分の魔力を薄く放出して、帰ってくる魔力からある程度何がどこにあるかわかる魔法だそうだ。そこまで難しくない魔法だということなので、俺も聞いたまま自分の魔力を広げてみる。
うーん、おかしいなぁ。ある程度どころか、何がどこにあるか、というか魔物も含めて何が採れるかばっちりわかるんだが。薬草、果物、岩石、川と湖、牛の魔物の群れ、大きな熊の魔物もいるな。地下の水の流れまでわかるぞ。そうだ、
「羊皮紙を一枚いただけますか?」
と貰った羊皮紙を手に取り、神父がそうしているように浮かんだ光景を魔法で焼き付ける。はい、これで、
「この辺りの地図の完成だ!」
ってあれ?なんかみんな口をあんぐり開けていらっしゃる?
「ソニア様ー!!大変です!!この辺りの地図が!地図ができました!」
え、え、どういうことだ?こんなの魔法が使えるならみんな……
「普通はこんなに詳しくわかりません!!」
わからないそうだ。
「普通探知魔法でわかるのは物の形に過ぎません。何があるかは形から推測するしかないのです。故にこのような詳細な地図は、今までは地道に調査しないと作れなかったのですよ!」
うーむ、また【採取】さんがやっちまいましたか。今まではここまで詳しくわからなかったのになぁ。魔法という武器を持った途端、【採取】が使いやすくなってしまったか。
しかも、だ。さらにやばいことがわかってしまった。
「探知魔法を使ったら皆さんのスキルもわかってしまったんですが……?」
「「「!?!?」」」
みんなさっきよりひどい驚きようである。
「そ、そんな効果は探知魔法にはないはずです!」
だろうなぁ。でもわかるものはわかるんだな。
「ソニア様は【魔法】の他に……」
知られたくないかもしれないので耳打ちで。
「【短剣術】と【料理】のスキルを持っていますね?」
「えっ?はい……」
当たりだ。三つもスキルを持っているなんてかなり珍しいな。
ということは、他人のスキルも採取対象ということだろうか?だろうなぁ。
他人からスキルを採取した場合相手からスキルはなくなるのか?自分はスキルを得られるのか?疑問は尽きないがうかつに検証はできない。味方から採って何も残らず消えたら笑えないしな。
そのまま何もなく王都まで行ければ良かったのだが、運悪く熊の魔物が進路上にいた。やはり街道沿いの魔物の数が多くなってないか?
「俺に任せてください。色々検証もしたいので」
と、俺一人で相手をする。検証をするといっても熊の魔物は中級に位置する魔物だ。油断したら命はないので気を引き締めて相手をする。
今回武器は使わない。舐めているのではなく、【草薙剣】無しでの戦いに慣れるためだ。
さて、まずは相手がどんなスキルを持っているか探知魔法で確認する。すると、ヤツは【怪力】のスキルを持っていた。よし、これで検証ができるな。
全身に魔力を通して身体能力強化の魔法を発動する。相変わらず魔力を食うので空気中から魔力を採取して相殺する。
熊は右腕を振り下ろす。俺はそれをバックステップで避ける。よし、視力も思考速度も上がっているな。余裕を持って避けられたぞ。今度はこっちの番とばかりに相手に手を触れて、
「採取!」
と叫ぶ。すると、何だか体に力が漲る感覚がする。確かめてみると、熊の魔物から【怪力】が消えていた。よしよし、相手からスキルを採ることができたぞ。自分のスキルに加わったかはまだわからないが……。
熊の魔物は戸惑ったような態度を見せる。力が抜けてしまったからな。当然とも言えるが、それは命取りである。身体強化をした上での俺のパンチを食らった熊の魔物は……。まだ耐えているな。検証も終わったので俺は銛を収納袋から取り出す。狙うは熊の胆だ。熊の胆は薬の素になるからな。この先必要になるかもしれん。採取を意識しながら突き出すと、銛の先には見事な胆が刺さっており、大ダメージを受けた熊の魔物は塵へと変わっていった。
さて、何が落ちるかな?ドロップアイテムは……肉、皮、爪の三個か。やはり【採取】はスキルの☆の数が増えるほど効果も高くなるようだ。
あとは教会で【怪力】が増えてるか確認するだけだな。
その後は特にイベントはなく、スムーズに王都に到着した。そう、スムーズすぎたのだ。ここまでは。これから、俺は事態を楽観視しすぎていたことにようやく気づくことになる。
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