第10話
スキル【魔法】を獲得した俺は、ソニア様に魔力制御を教わっていたのだが……。
「私が十年間で到達した魔力制御力に、たった五分で追いついたのです。もう異常としか言えません」
異常呼ばわりされた。いや、いいことなんだから「天才」とか言ってくれればいいのに。「異常」て。
「私が教えられることはもう何もありません。後はご自分でどうぞ!」
あ、拗ねた。
「いやいや、魔法言語とか、どういう魔法をイメージすればいいとか、全然教わってませんって!」
「無詠唱法なら魔法言語を覚える必要はありません。スキルが自動で変換してくれますから。魔法のイメージについては個々人によって異なるので教えようがないのです」
あれ?でも……
「魔法研究所でやってた魔法言語の研究は?」
「あれはイメージの限界を調べているのです。魔法言語の解析をすることで、どんなイメージをするとどんな魔法言語が使われるかを特定し、どこまでのイメージなら魔法で再現できるかがわかりますから」
「限界ですか」
「そうです。例えば、魔法で治癒はできても死者の蘇生はできません。『蘇生』という単語が魔法言語に現状存在しないからです。これが魔法の限界です。先ほどの火球は、上級魔法の威力の限界を調べていたようですね」
なるほど、流石ソニア様だ。そんなことまで知っているだなんて。
「では本当に?」
「本当の本当に、教えることがなくなってしまったのです……」
なんてこったい。これでは「いいところを見せようと思ったのに一瞬で終わってしまった」という悲しい展開だ。
ならせめて……
「なら、アドバイスをいただけないでしょうか?」
「アドバイスですか?」
「はい。実は、身体能力を強化する魔法が欲しいのです」
そういうとソニア様は真面目な顔になって、
「身体能力強化ですか……筋力の強化などではなく?」
それも考えるには考えたのだが、
「いえ、感覚も強化したいのです」
そう、以前言っていた、【草薙剣】使用時とそうでない時の感覚のズレをこれでなんとかしようというのである。
「一般的には筋力強化と感覚の強化は別の魔法になるのですが……。一体型の魔法ですか。いいですね、面白いです」
なにやら燃える研究者の目になってしまった。
「筋力強化は今の自分より筋肉のある人をイメージするとできやすい、視力なら遠くまで見通す鷹のイメージをする方が多いと聞きます」
なるほど、強化魔法はそういうイメージになるのか。だけど、俺が使いたいのはそうじゃない。速く動き、速く考え、力強い一撃を与える。そんな力が欲しい。そう伝えてみる。
「そうですね……。ならばいっそのこと、全身に魔力を通してみてはいかがですか?」
全身に魔力を通す?
「魔力を纏った部位の能力が向上する魔物がいると本で読んだことがあります。その真似事ですが……」
「やってみましょう」
俺はそう言って、制御できるようになったばかりの魔力を体の各所に回し始める。むっ、これは……
「ま、魔力の消費が激しい……」
すぐに意識が遠のいていく。視界の端に駆け寄ってくるソニア様が見える。ああ、もっと魔力があれば。魔力が欲しい。欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい――――
気がついたら先ほどまでいた宿の一室に倒れていた。先ほどまであった魔力の喪失感はもうない。むしろ、充足感に満ちている。
「大丈夫ですか!?」
とソニア様が駆け寄ってくる。うん?まだこちらに届いていなかったのか。ということは気を失ったのは一瞬だけか?
「もう、やりすぎです!」
と可愛らしく怒るソニア様。すみません。
「ですが、普通魔力切れを起こした人は数十分目を覚まさないはずなのですが……」
そうだろうな。気を失う直前の感覚ではすぐに回復するような感じはしなかった。ということは、だ。
「これも、【採取】のおかげかもしれません」
「え?」
「実は、気を失う前に、魔力が欲しいと思ったのです。
もしかして、空気中に魔力があったりしませんか?」
ソニア様に尋ねるが、もう自分の中では確定事項だ。意識を取り戻してから、自分の中にあった魔力が外にも満ちていることを感じる。
「いえ、私には分かりかねますが……」
返答は意外なものだった。そうなのか。魔法が使える人はみんな感じ取れるのだと思っていたが、これはむしろ……
「おそらく、俺は空気中から魔力を採取して自分のものにしました」
この答えで間違いないだろう。そして、採取対象だから感じ取れる。つまり、
「つまり、魔力切れを起こさない魔法使いになったということですか!?」
そういうことになるようだ。
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