第9話

 魔法研究所で火球の魔法を採取した俺。教会で確かめてみると見事に【魔法】を習得していた。……何を言ってるかわからんと思うが俺にもわからん。とにかく、巨大な火球から身を守るために一か八か採取したら、スキルを得てしまったのだ。

 あ、これもしかして、【万物採取】の効果か?だとしたら採取って防御にも使えたりする?やっぱり強いわ、採取。

 取得方法はともかくとして、これで【草薙剣】と合わせて憧れの剣と魔法を使う戦闘ができるようになった……はずだ。はずだ、というのは魔法の使い方がわからないからだ。というわけで、


「ソニア様、俺に魔法の使い方を教えていただけませんか!?」


 となるのは必然で。

 ソニア様は突然のことに戸惑っていたが、事情を説明すると得心が行ったらしく、


「いいですよ。ただ今日はもう遅いので、基本を少しだけ、ですね」


 と言ってくださった。



 宿に帰ると、どこから持ってきたのか、黒板とチョークを使っての説明が始まる。


 

 まず、魔法の種類について。

 魔法には、生活魔法と戦闘魔法がある。

 生活魔法とはその名の通り生活に用いる、威力の小さな魔法のこと。小さな火を起こしたり、風を吹かせたり、水を出したりと用途は多岐にわたる。

 戦闘魔法もまたその名の通り、戦闘用の魔法のことだ。戦闘魔法はその中でまた放出魔法と強化魔法に分けられており、さらに下級、中級、上級、超級、神級とクラス分けされている。俺が食らいかけた火球は放出系の上級魔法にあたり、結構危険な魔法だ。本当に、たまたま俺で良かったな!

 強化魔法は自分や味方を強化したり敵を弱体化したりする魔法群のこと。病気や怪我の治癒も、自然回復力の強化ということで強化魔法の範疇だ。



 続いて、使用方法について。

 魔法研究所では「言葉を発する必要はない」としていたが、必要はないだけで言葉を発する方法もある。「詠唱法」である。

 詠唱法では、これも魔法研究所で出てきた魔法言語を正確に発し、使用する魔法を指定する。メリットは、発音が正確であれば常に一定の魔法が発動し、イメージでの調整が必要ないこと。デメリットは、発音に時間を要することと応用が効かないことだ。

 逆に、詠唱しない「無詠唱法」もある。こちらは、頭の中のイメージをスキルによって魔法言語に変換し、使用する魔法を指定する。メリットは、詠唱の必要がなく発動が早いことと、イメージ次第で応用が効くこと。デメリットはイメージが上手くいかないと発動自体ができなかったり不安定に発動したりすることだ。

 昔は安定性を求めて詠唱法が好まれていたそうだが、詠唱が一般的になるとともに使う魔法が相手にバレる危険性が増えてきたため、現在では無詠唱法が主流になっているそうだ。

 ソニア様が今回教えてくださるのも無詠唱法のようだ。無詠唱法に必要なものは四つ。

 まずは前提として【魔法】スキルだ。これがないと魔法言語への変換ができずいくらイメージをしても魔法が発動しない。

 次に魔力。魔力は魔法を使ううえでのエネルギーだ。この多寡は人それぞれ違ううえ、容量の成長もするのでその時その時で自分が持っている魔力の量を把握する必要がある。

 そして魔力制御力。いくら多くの魔力を持っていても、それを扱いきれないと大きな魔法の行使は不可能だ。これをオーバーするとこの間の火球みたいに制御を失った魔法が飛んでいったり、最悪自爆したりしてしまう。

 最後にイメージだ。これがしっかりしていないと魔法言語が機能せず、不完全な魔法を放つことになる。



 以上四つを、現代魔法使いたちは長い時間をかけて訓練するのだという。


「ということですので、はい」


 と言ってソニア様が両手を差し出してくる。はい?


「師匠命令です。両手を握ってください。魔力とその制御を実感していただきます」


 うん?よくわからないが師匠命令らしいのでソニア様の両手を握る。


「ふわっ!?……んんっ。はい、大丈夫です。それではいきますよ!」


 ソニア様がそう声をかけると、俺の中を何かが流れ始める。いや、両手を介して、ソニア様に流してもらっている。


「感じますか?それが魔力です」


 これが……魔力。暖かくも冷たくもないが、間違いなく自分のものだとわかるような……そんな不思議な感じだ。


「では、私の作る流れに抗ってみてください」


 抗う……逆に流すように意識するということだろうか。

 うっ、難しい。言うなれば自分に突然しっぽが生えて、それを思うように動かしてみろというようなものなのでそれは大変困難だ。



「嘘!?こんなに早く……?」

 

  …………五分ほど頑張ってみたら、案外できるものだな。逆行までは行かずとも、流れを止めるくらいのところまではできた。これはいい感じかな?


 「ソウヤ様、よく聞いてください」


 ん?何かまずかったかな?


「あなたの成長速度は異常です。最後の方は私も本気で魔力を回そうとしましたが、ビクともしませんでしたから」


 ……おや?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る