第7話

 ソヴォークを出発した俺たちは次の街、ダイニーを目指していた。ダイニーまでは馬車で三日の道のりだ。

 その道中、ある夜の休憩時間のこと。ソニア様が、そういえばお互いのことをあまり知らないから改めて自己紹介をしましょうと言い出した。

 たしかに、これまでバタバタしていて、その辺が抜けていたな。信頼関係を作る上でお互いを知るのは大事なことだ。あと単純に王族、というかソニア様がどのように生きてきたのか気になるところもあるし。

 そうして互いに自分のことを話すことになった俺たち。まずは俺から話し出す。



 俺、ソウヤはノーソン村生まれノーソン村育ちの十八歳。

 外見的には父譲りの黒髪と母譲りの碧眼。体格は母に似たのか細身だが、父に似て筋肉はつきやすい体質で、所謂細マッチョと言えばいいのか。

 父と母はもともとボッカ王国各地を駆け巡る冒険者だったらしく、普段は村の色々なことを手伝いつつ、その知識と戦闘力を現在でも頼りにされている。ちなみに父は剣士、母は魔法使いで、王国内ではそれなりに名を知られた冒険者だったようだ。

 子どもは夢を見るもので、昔は両親に憧れて、剣と魔法の両方を使いこなす冒険者になるんだと憧れたものだ。まあ、俺にはどちらの才能もなかったから諦めるしかなかったわけだが。

 なぜなら生まれ持ったスキルは【採取☆】。あらゆる採取の効果を倍にするスキルだ。【剣術】や【魔法】のスキルは得られず、六歳の誕生日の夜は泣いて寝付けなかったっけ。【剣術】や【魔法】を得た人のことを羨ましく思ったことはないけど、得られなかった自分に落胆したことはある。

 そんな俺に、両親は常々言い聞かせてきた。


「与えられた力を皆のために使いなさい」


 と。

  そんなわけで俺は【採取☆】を活かして村の畑の手伝いなどをしていた。「採取屋」として実家から独立したのは十六歳のとき。成人したと同時だな。

 独立の祝いとして両親がくれたのが、今も使っている収納袋だ。これのおかげで「採取屋」は成り立っていた。本当に両親には頭が上がらない。

 そうして「採取屋」として二年過ごしたところで、ソニア様と出会ったというわけだ。



 俺の自己紹介が終わると、今度はソニア様が話し始める。



 ソニア様はボッカ王国の第二王女として生まれた。きょうだいに、姉が一人と兄が二人、弟と妹が一人ずついる。きょうだい仲は良好で、王位を巡る争いなどは起きていないという。平和で良いことだ。

 ソニア様の生まれ持ったスキルは【魔法】。体内の魔力を使うことで火や風を起こしたり、身体能力を高めたりと色々なことができる便利なスキルだ。俺の【採取】のように成長するスキルではないが、使用する魔力の量によって力を増減でき、下級、中級、上級、超級と段階を上げていく。ただ、魔力の扱いは難しく、大きな力を使うにはそれを制御する難しさが伴うらしい。

 ソニア様は十六歳という若さで中級の魔法を行使できる、優秀な魔法使いと言われているそうだ。

 普段は王族としての教養を学ぶ時間が多く、起きている時間の半分はそれに費やす。残り半分は食事や風呂などと、魔法の訓練、趣味の読書に充てている。

 そんな日常はダルン病によって崩れ去ってしまった。ある日母である王妃様が、その後次々にきょうだいたちがダルン病に罹っていく。不幸中の幸いだったのは、父である国王様が罹らなかったこと。そしてもう一人、ソニア様も罹らなかったことだ。国王様が政務を行いつつ、ソニア様が俺を探すということができたのだから。

 読書が趣味だったソニア様。スキルに関する書物も例外ではなく、【採取】のことも朧気に覚えていた。それが役立ち、スキルに関する書物を片端からあたった結果、【採取】のことを発見。王都にある教会本部に【採取】を持つ者を探すよう依頼し、俺が見つかった。そして、いても立ってもいられずソニア様ご自身で俺に会いに来た……これが現在に至るまでのソニア様の自己紹介だった。



 ある程度は聞いていたけど、改めて聞くと、家族愛と責任感の強い方だと思う。わざわざ俺のところにご自分で来るくらいだからな。そんなソニア様の役に立てるのであれば、【採取】の力を得たことも嬉しいな。

 お互いのことを知り、ソニア様の家族を助ける決意を新たにした俺たちは旅を続け、ダイニーの街に着くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る