第6話

 その後は大きなトラブルもなく、王都への途中にあるソヴォークの町に到着した。

 町で一番の宿を取ったあと、早速教会へ。ミノタウロスとの戦いでこれまでより速く動けたように感じたからだ。



 神父にお布施を払い、祈りの体勢をとる。一分ほどで目を開けると、神父が紙に神託の結果を書き写していた。ここの神父はそういうタイプらしい。



 結果を見ると、【高速採取☆】が【高速採取☆☆】に成長していた。やはりな。

 成長するスキルなんて聞いたことがなかったから、成長の条件がわからないが、これまでにない強敵との戦いとかだろうか。それとも単に戦いの数なのだろうか。

 スキルの成長が嬉しい反面、俺には一つの不安があった。

 ――人間相手に戦えるのか。

 俺はこれまで相手が魔物だったからこそ「採取」の一環だと思って戦ってこれたのだと思う。だが相手が人間ならどうだろうか。人間からアイテムがドロップするわけではないし、他に何か得るものがあるとは限らない。

 そんな人間相手の戦いで、果たして【採取】スキルは発動するのだろうか。

 そう考えた俺は、道中で騎士と木剣での模擬戦を行った。結果、ミノタウロス戦のような凄い力を発揮することも、素早い行動もすることができず、剣の振り方すらままならなかった。

 つまり、俺の持つスキルは「奪う」ためのものであり、「守る」ためには使えないことがわかってしまったのだ。ついでに言うと、草薙剣を使わない場合剣術も素人丸出しになってしまうことも。



 それからというもの、その問題――人間相手にスキルが使えないこと――を解消するためにはどうしたら良いのか悩み続けている。正確に言えば【草薙剣】の【剣術】と同じような効果だけは、草薙剣を手にしているときには発動しているのだが……。

 なら、草薙剣を常に使えば良いじゃないかというところだが、やはりパワーもスピードも魔物と対峙している時とは段違いなので、強さが格下げされるのに加え、意識にズレが生じて気持ち悪いのだ。

 それに、【草薙剣】の効果中は自分じゃない感覚というか、スキルに操られている感じ……作為体験といえばいいのかな。それが生じている。これがまた気持ち悪さを与えてくるのと、自分の力ではないと感じてしまうので、あまり好ましい状態ではない。

 だから、極力【草薙剣】の力に頼りきった戦いはしたくないというのが本音だ。もちろん、現状頼らないといけないというのも偽りなく本心ではあるのだけれども。


 

 その後ソニア様と合流して、ソヴォークの町をあてもなく歩く。これはソニア様が言い出したことだ。自分たちが治める国の町の様子を見て回りたい、と。まあ王族はこんな機会でもないと王都以外には来れないか。護衛はと聞くと、ソニア様も騎士たちも、俺がいれば大丈夫だろうとのこと。信頼されているのは嬉しいが、さっきまで考えていたことが頭を過ぎる。正直対人戦はまだ勘弁願いたいところなのだが……。トラブルが起こらないことを祈るしかないか。

 ソヴォークの町は特筆した名物のない平凡な町だ。町の大きさも村とも街とも呼べず、まさに「町」と呼ぶに相応しい。

 そんな町の中央通りを、ソニア様と連れ立って歩く。名物がないとは言ったが、市で売られている野菜や果物などはどれも美味しそうに見えるし、雑貨もお洒落なものがたくさん並んでいる。


「あれは美味しそうですね!」


 と言われれば一緒に食べ、


「あのアクセサリーはお洒落ですね!」


 と言われれば二人して財布と商品とを交互に見つめ、ため息を吐いたりした。

 正直、女性と、しかも王女様と二人で出かけるっていうのは初めての経験だったので、これが合っているのかはわからない。

 しかし、実はこっそり後ろを着いてきていたらしい騎士がOKサインを出していたのでまあ悪くはないのだろう。それにしてもいつの間に着いてきたんだ。密かに騎士に感心する。



 一通り町を回ったあとは、宿に向かってゆっくり休んだ。次の日からまた長距離移動になる。体力は蓄えておくべきだ。



 そして次の日、次の町に向けて俺たちは出発した。

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