第4話

 王都までの道は馬車移動だからそこまで苦ではない。まあ、ソニア様の馬車と騎士を含めた俺たちの馬車では豪華さが違うというのはあるが。

 ソニア様が乗る馬車は豪華な小屋のようなもので、素材が魔銀のため軽く、硬く、魔法にもある程度の耐性がある。まさに王族が乗るに相応しいものになっている。

 対して俺たちが乗っているのは雨避けがついてはいるが基本的に吹きさらしの、木造の馬車だ。いや、まあ身分の違いもあるが、他にもちゃんとした理由はある。外に出ようとしたときに出やすいのだ。

 馬車があるとはいえ全員が馬車に乗っているわけではない。騎士たちの何人かは護衛のために馬に直接乗って移動している。だから道端で魔物や盗賊などの驚異に出くわした際にはその者たちが対処するわけだが、その数人で対処できない問題があったとき、外に飛び出すのに邪魔にならないように作られている、というわけだ。


 

 そんな作りだが、ノーソンの村を出て三日目にはもう役に立つことになった。そこそこ強い魔物が出たのだ。

 現れたのは牛の魔物だった。魔物はその強さによって何段階かに分けられており、最下級、下級、中級、上級、……その上はなんだったかな。まあ、分けられているのだ。

 階級の違いは基本的に討伐にかける騎士の人数の違いだ。最下級は一人で余裕を持って倒せるもの。下級は一人から四人程度。中級は十人程度必要。上級の魔物になると、三十から五十人もの人数が必要になるという。

 この間の蛇の魔物は下級と中級の間くらいだった。もう少し成長していれば中級になっていただろうな。今回の牛の魔物は普通に中級だ。つまり、外回りの騎士だけでは足りず、俺たちも参戦することになった。

 あ、一応俺も戦力に数えられている。というか、お願いしてそうしてもらった。スキルの検証がしたかったのだ。【採取】が戦闘に役立つのかまだ未確定だったからな。まあ最初が中級の魔物だということにだいぶ不安があったが、それはそれ。自分で言い出したことなのだからやってやるしかないさ。

 それにしても妙だな。今回しかり、この間の蛇しかり、村や街道の近くに魔物が多い気がする。一抹の不安を頭の隅に追いやり、戦いに集中する。


 

 幸い、向こうがこちらに気づく前に発見できたので、知覚外からの先制攻撃は避けられた。とはいえ気づいて突進してくるのもなくはないので、こちらから接近して倒すことになった。

 近づいてみると、やはり大きいな。普通の牛とは違い、見上げて首が痛くなるほどの大きさだ。これを十人程度で討伐してしまう騎士って強いんだな、と改めて思う。

 今回選んだ武器はこの間ドロップした剣だ。スキルにあやかって「草薙剣」と呼んでいる。今回はスキル【草薙剣】とこの剣「草薙剣」のテストでもある。剣なんぞ振るったこともない俺だが、果たして戦いに使えるのだろうか。まあ最悪途中でツルハシか何かに持ち変えよう。収納袋に入っているし。



 馬車から、あるいは馬から降りて牛の魔物に近づいていく。あと二十歩程で剣の間合いに入るといったところでようやく向こうがこちらに気づく。よし、この距離ならお得意の突進をしてくる前に届く!

 騎士も俺も、剣の間合いに走り込み、突進の予備動作をしている牛の魔物に斬りかかる。



 ザシュッ!!


 草薙剣が一撃で魔物の右後ろ脚の太さの半分ほどまで深い傷を付ける。他の騎士たちが表面に浅い傷を付けただけなのに比べ、明らかにダメージが大きい。やはり【採取☆☆】スキルのおかげか。ニ撃目は他の騎士より速く、右後ろ脚を斬り落とした。これは……もしかして【高速採取☆】が作用しているのか。そして間違いない。剣をどう振るえばいいのか、初めてなのに迷いなくわかる。これは間違いなく【草薙剣】によるものだろう。名前は違うが【剣術】と似たような効果があるのかもしれない。……【採取道具☆】の可能性もあるが剣は採取道具とは言わないだろう。

 その後も暴れる牛の魔物を他所に脚を一本ずつ落としていき、最後に頭を落として戦闘はあっさりと終了した。

 生まれてこの方、採集用のスキルだと思っていた【採取】だが、もしかして真価はこちらの方だったのか。そして付随するスキルたちも名前は平和な癖して中身は戦闘用のものばかり。「採取屋」と書いて「せんとうきょう」と読めてしまう未来が見えた気がしてげんなりする。

 まあともかくとして、牛の魔物を無事に倒した俺たちはドロップアイテムの牛肉を手に揚々と馬車に戻ろうとする。

 すると、騎士の一人が


「おい、あそこにもう一頭牛がいるぜ!ついでに狩って帰るか?」


 などと笑いながら言う。確かに牛の頭が近くに見えた。


「おう、いいな!しばらくは食い物に困らなくなりそうだ!よし!行くぞ!」


 と騎士のリーダー格が声を上げ、また魔物に近づいていく。



 しかし、そこにいたのは牛の魔物ではなく、


「ミ、ミノタウロスだ!」


 上級に分類される牛頭人身の魔物であったのだ。

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