第3話
朝起きて、改めてソニア様に挨拶に行く。ソニア様たちは村で唯一の宿屋に泊まっているということだ。早速準備をして向かうと、なにやら
「やあ!!」
とか
「とお!!」
とか、気合いの入った声が聞こえてくる。
近づいていくと、どうやら騎士たちが訓練をしているようだ。魔物と戦った翌日なのに大変だなあ。さらに近づいて話を聞いてみる。すると、魔物相手に何もできなかった不甲斐なさから訓練をしていたらしい。
これは俺のせいでもある。素人の俺が魔物を倒してしまったからな。どうしても比べてしまうのだろう。
騎士の一人にソニア様の居場所を聞き、宿屋の自室にいらっしゃるようなので訓練中悪いが案内してもらう。
案内されたのは宿屋の中でも一番広い部屋だった。ノックをすると返事が聞こえたので、
「失礼します」
と入室する。
ソニア様はベッドに腰掛けていた。改めて見るとものすごい美少女だ。透き通るような白金の髪。くりっとした眼、通った鼻筋にぷっくりとした唇。昨日は魔物に集中していたから意識する間もなかったが、見ているとドキドキしてしまう。
「ソウヤです。私をお探しとのことでしたので、参上致しました」
と緊張を押さえ込みながら言う。
「ソウヤ様、私はあなたにあるお願いをするためにこの村へ参りました」
「お願い……ですか」
「はい」
それからソニア様は「お願い」について話し始めた。
先日のことだ。ソニア様の家族、つまりは王族のほとんどが病に臥せってしまった。残ったのは王様とソニア様のただ二人。
これがただの病ならば時間が解決する問題だったのだが、罹った病はダルン病。なんとなく体がだるいことを初期症状とし、長くても一年後には体が全く動かなくなり死を迎えるという恐ろしい病気だ。
しかも、この病気を治療する薬を作るのに必要なスキリの花は、一年に一度、たった一輪しか咲かないのだという。ダルン病は数十年も前に根絶されたと思われていたので、スキリの花のストックもなく、全員を治すのは絶望的。
だが、様々な文献を当たってみたところ、【採取】というスキルが「採取の効果が倍になる」という効果であることが判明。
スキルを取り扱う教会の繋がりにより俺が発見され、白羽の矢が立ったというわけだ。
しかし、
「ダルン病に罹ったのは何人ですか?」
「母、兄二人、姉、弟、妹の六人です」
そうか。それは……
「残念ですが、俺でも全員を救うのは無理です」
「えっ……」
「俺の【採取】でも、採れる量は倍になるだけ。六人分は採れません」
「そんな……」
「お力になれず、申し訳ありません」
そう言って、部屋を辞す。最後にチラリと見えたソニア様の泣き顔に、胸が引き裂かれそうな思いになりながら、自分の無力さを噛み締めていた。
翌朝。いつものように村の畑の手伝いをしていた。だけど、昨日のこともありあまり集中できていなかった。
収穫が終わりに近づいた頃。収穫量がいつもよりずっと多いことに気がつく。集中できていないこともあって、実りが多かったことにも気がつかなかったのかと思ったが、次の実を収穫したときにその理由がわかった。
「収穫量が三倍になってる……!?」
一つの実から三つの実が収穫できたのだ。何を言ってるのかわからないと思うが、そういうスキルだ。諦めてくれ。
それよりも、収穫量が三倍になったことだ。以前との変化はスキルの変化。そしてスキルを改めて思い出すと、思い当たる節はただ一つ。【採取☆】が【採取☆☆】になったことだ。
つまり、【採取】スキルは、(☆の数+1)倍の効果を発揮するのだ。これは……
その畑での収穫が終わった後、俺は村の入口に走った。
村の入口に着くと、帰り支度を終え、今にも出発しそうなソニア様たちがいた。
「待ってください!!」
驚くソニア様たち。俺は今朝あったことを説明して、
「このまま【採取】スキルが成長すれば必要な量のスキリの花が採れるかもしれません。俺も連れて行ってください!」
と申し出る。
これまで沈んでいた一行の目に光が灯り、歓声が上がる。
そうして王都への旅に出ることになった俺は、ひとまず自宅に帰り旅支度をする。まあ必要なものを収納袋に突っ込むだけだが。
ソニア様たちを待たせているのでサクッと終わらせて、さあ、人生で初めての旅に出よう!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます