『裁判所』 その2
退廷に当たって、裁判長は、わざわざぼくのベッドに近寄ってきて言った。
『残念ながら、一歩足りなかったんだ。ちょっと遅かった。』
『え?』
そうだ、あの、お風呂にいたのは、この人だったのだ。
『きみは、よく頑張ったが、あと少し、力が及ばなかった。それだけのことだ。だが、それが、すべてだ。気に病むことではない。どうにもならないことがあるものだ。』
『これから、どうなるのですか?』
『なに、白い火葬場で、白い炎に焼かれる。そうしたら、また、あの白い家に入れる。こんどは、正式な住人だ。ただし、こちらには、戻れないよ。焼かれるからな。つまり、当たり前のあり方ではな。』
『当たり前のあり方?』
『気にするな。どんなに、判らないことでも、必ず理屈があるものだよ。では、さようなら。』
裁判長は、去っていった。
ぼくは、頭から、白い貫頭着を被った人たちに押されて、裁判所を出たのである。
裁判所の隣は、『葬祭場』だった。
みれば判る。
しかし、そんなこと、かつて気が付かなかったが、『白い火葬場』『赤い火葬場』という分類がしてある看板が見えた。
『なんだ、それは。第一ぼくは、生きているだろう。なんで、火葬場なんだい?』
やっとこさ絞り出した声で、白衣に白い手袋のおじさんに尋ねた。
『おや。さっき、言っただろう? 白い家に永遠の拘束をするためだ。』
それは、裁判長だった。
『君も知るように、いまの世の中は、1人で何役もこなさなければならないのさ。』
ぼくは、ストレッチャーに乗り換えて、内部に運び込まれた。
『これにも、ちゃんとした、ルートがある。判るだろう?』
裁判長は、ウインクをした。
😉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます