『裁判所』 その1


 ぼくは、いつの間にか、また、気を失っていたようだ。眠ったのかもしれないが。


 『開廷する。被告人はそのままでよろしい。』


 そういう声が聞こえた。


 まだ、夢と現実の区別がついていないらしい。


 『検察官は、罪状を述べ、求刑を行いなさい。』


 『はい。裁判長。』


 立ち上がった検察官は、職場の所長さんだった。


 『え、被告人は、自らの都合を主張することに、ひたすら、我田引水、眼中無人にして、はなはだ組織から乖離した行動に終止し、組織を破壊しようとした罪は許しがたく、よって、やむなく、死刑を求刑いたします。』


 『よろしい。弁護人。』


 『はい。』


 弁護人は、ぼくの後輩だったが、確かまだこの時点では就職していないはずだ。


 『え。被告人は、性格、優柔不断ではありますが、基本は、分け隔てなく優しく、やや、精神的に問題を抱えている中での今回の行動でありまして、情状酌量の余地があろうかと思いますので、無期懲役が至当と考えます。』


 『よろしい。では、証人を呼びなさい。』


 『のりちゃんと、としくんを招聘します。』


 『入りなさい。』


 そこには、あのふたりが現れたのだ。


 ぼくはといえば、ベッドに吊り下げられたままである。


 空っぽの点滴が、5本はぶら下がっていたが、誰も気にしないらしい。


 ふたりは、選手宣誓みたいに、同じ文面を読むように言った。


 『被告人は、わたしたちの関係に介入し、無惨にも、破壊しようとしました。』


 検察官は尋ねた。


 『あなたがたは、それを、つまり、破壊されたくはなかったのだね。』


 『そうです。』


 『よろしい。では、弁護人。』


 『え、そもそも、あなたは、被告人とも、お付き合いすることを、了承したのでしょう?』


 『上司の薦めでしたから。しかし、被告人には、その資格がないと判断しました。』


 『ほんとに?』


 『はい。間違いなく。被告人は、わたしには、相応しくないのです。』


 『なるほど。おわります。』


 『これにて結審する。判決を申し渡す。被告人は、『白い家』にて、無期拘束とする。社会に戻ることは、あいなりません。』


 法廷内がざわざわした。


 傍聴人がいるらしいが、ぼくには見えない。


 『いいですか。これは、きわめて、温情的な判断です。あなたに必要なのは、永遠の時間なのです。ゆっくりと、休みなさい。これにて、一件落着ぁ〰️〰️く。』


 なんだか、さっぱり判らなかったのである。


 冗談だとしか思えない。


 やはり、夢の中の出来事に違いないだろう。


 そうに決まっている。


 これは、目を覚まさなくてはならない。


 このままではだめだ。


 しかし、もう、それ以上、目は覚めなかったのである。


 看護師さんがふたり現れて、点滴を交換した。


 ぼくは、眠たくなった。




 


 

 

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