第2章 『病院』 その1


 『はい。起きてくださいよ。手術は、無事終わりましたよ。』


 ぱんぱん、と、ほっぺたを叩かれたような気がした。


 ぼくは、最初から、良く解らなかった。


 不可思議な夢を見ていたようには思う。


 それも、かなり、曖昧だったけれど。


 『手術。手術。』


 しかし、それもまた、はっきりしない。手術って、なんだった?


 ストレッチャーが、広い病院内を駆け抜ける。


 目が悪いから、あまり良くは周囲の様子が解らないのだ。


 判るのは、やたら早く走り抜ける天井と、明かりだけだ。


 ぼくは、山の上に居たように思う。


 あのふたりが、笑っていた。


 崖が見えた。


 崖っぷちにいた。


 他に何をすることがあるだろうか。


 白い家が見えた。


 シャワーの音が聞こえた。


 まだ、すべてが断片的で、良く固まらないみたいなのである。


 半熟玉子のように、やたら、ふわふわしているのだが、どうしても、それ以上には固まらない。


 眠たい。


 『まだ、麻酔が切れてないですから。』


 という、看護師さんらしき人の声が聞こえたのは、なんとなく判る。


 どうして、病院に来たのだろう。


 いまは、何時なのか?


 痛みや苦痛はない。


 すべては、まるで、消え去ったようだ。


 みんな、夢だったのだろうか。

      

 

 


 


 


 

 

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