『白い家』 その9
死にかけの蝶は、焼きかけのお煎餅みたいに、なにも語らない。
ほんとうに、そうだろうか?
蝶は、人にまとわりつきながら、必死に語りかけているのかもしれない。
ただ、人間にはそれを判る術がないのだろう。
蝶は、ひとを噛まない。
ヒトクイ蝶がいるかどうかは、ぼくには分からないが、見たことはない。
しかし、この丘には、蝶も、蟻もみあたらない。
それは、もう解ってはいたが、いまは、必死に走った。
丘からしたに向かって。
小道はよく整っていて、ほったらかしだったとは、思いにくい。
何らかの意志が働いている。
白い家。
玄関の注意書き。
不可思議な時計。
姿を確認できなかった老人らしき人と、言葉。
それらは、みな、人知の範囲内にあるものだ。
しかし、そのあり方は、まるで、ぼくは理解できていないものだ。
小道は、どこまでも、下ってゆく。
途中には、両側に緑色の丘が広がるだけで、なにも無かったのだが。
10分も走ったところで、ぼくは息を切らせて、立ち止まった。
後方を見上げたが、緩やかにカーブした小道と、壁のような丘が見えるだけで、他には何もない。
白い家は、見えていない。
行く先もまるで同じである。
しかし、ぼくは、あの不可思議な声が言ったことが気になって仕方なかったのである。
『まだ、間に合うかもしれない。やってみる意味はある。』
止まっているべきではないのだろう。たぶんだが。
あの人は、それを教えてくれたに違いない。おそらくだが。
ぼくは、また、走り始めた。
すると、靴が溶け始めたのだ。
🏃♂️.........
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