『白い家』 その8
『あの、おそれいります。突然ですが、尋ねたいことがあります。』
ぼくは、やや、叫びぎみに言った。
まだ、シャワーの音が聞こえているのだ。
しかし、返答はなかった。
もう一度言った。
『あの、強盗じゃないんです。ここは、なんですか? 知りたいのです。』
すると、お風呂場の中から、いささかしゃがれ気味の声がした。
たぶん、高齢の男性のようだった。
『わかっている。ここは、あなたの家だ。』
『はあ? じゃ、あなたは、どなたですか?』
『ここは、ぼくの家だ。気にするな。無意味だ。すべて、物事の範囲外ですから。しかし、範囲内に居たいのならば、すぐにここを出て、丘をかけ降りなさい。まだ、間に合うかもしれない。やってみる意味はある。いまならば。ぼくは、やらなかった。だから、いまなら、可能だ。急げ、人生は短い。』
ぼくは、我慢できなくなって、お風呂場のドアを開けた。
しかし、そこには、誰も居なかったのだ。
シャワーは、出っぱなしになっていたが。
『あわわわわわ。』
ぼくは、また、衝動的にさきほどの応接間に戻って、時計を見た。
『2050年6月20日...? ありえない。』
玄関の扉は、いまだ、開いたままだった。
ぼくは、靴を引っ掛けて、そとに飛び出たのである。やや、ふらふらと、まるで死にかけの蝶のようにだ。
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