『白い家』 その6


 とはいえ、白い家のなかでは、なんの気配も感じなかった。


 人がいれば、気配がする。


 気配を消して、佇んでいるというのは、尋常ではない。


 まして、木造の家ならば、映画のようにはゆかないものだ。


 幽霊なら話しは違うかもしれないが、幽霊がいるわけはなかろう。


 しかし、と、ぼくは思う。


 ならば、ここは、何なのだ?


 どうにも説明しがたい。


 が、ぼくは、ついに見付けたのだ。


 時の表現者。時の、管理者。


 それは、もちろん、時計だ。


 時計なくして、近代的管理などはありえない。


 それは、現実を体現し、人に現実を思い出させる。


 現実につなぎ止め、脱出を困難にするのだ。


 その時計は、向かい側の壁に張り付いている。


 秒針が回っていて、明らかに動いていた。


 これこそ、ここが天国でも地獄でもない確固たる証拠ではないか。


 ぼくは、その近くに寄り、よく見たのだ。


 2024年6月20日。17時13分。


 いや、それは、あり得ないだろう。


 おかしいとしか言えない。


 ぼくは、1985年の5月20日にいた。


 この時計は、間違っている。


 ほかに、説明はあり得ないだろうと思った。


 

      🕔️

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