『白い家』 その5


 再び玄関に侵入すると、驚いたことに、さきほどの注意書きがなくなっていたのである。


 『ない。なぜか?』


 物質が、短時間に、自然に自ら消滅することがあるのかどうか。


 燃焼することは有るかもしれないが、跡が残るだろう。


 それよりは、誰かが片付けたと考えるのが、より合理的であろう。


 ならば、この家の中には、誰かがいることになるのではないか。


 もちろん、ぼくは、家の周囲を見て回っていたから、その隙に何者かが入ったのかもしれないが、そうした気配は感じなかった。


 『あの。こんにちは。お邪魔しています。』


 再度呼び掛けたが、やはり、反応はない。


 『あの。上がります。失礼します。』


 日本の住宅なら、土足は厳禁であろう。


 また、玄関に靴箱と、スリッパがあることからすれば、日本家屋に違いない。


 しかし、綺麗である。


 よく掃除されていると思われたのだ。


 けして、豪邸の部類ではない。


 うさぎ小屋か、たぬき小屋かは分からないが、まあ、そうした類いにあると言ってよい。


 ただし、洋風の2階建てである。


 右側にはドアがあり、左側は引戸になっていた。その間には廊下がある。向こう側の右側にもドアがあるのが見える。その正面は行き止まりだ。


 片っ端から開けてゆくのは、礼儀に反するに違いない。


 『こんにちはあ。』


 ぼくは、まだ、そう言いながら、玄関は開けたまま、くつを脱いで上がり込んで、右側のドアを開けたのである。


 すると、そこは、思いの外、割に広い、応接間のような部屋であったのだが、さっき玄関さきにあった、あの注意書きが、今は、そこのテーブルの上に置いてある。


 やはり、誰かが移動させたに違いない。


     🚪


 

     



 


 


 


 

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