『白い家』 その3


 白い家の周囲を回りながら思った。


 この家には、たしかに、玄関はあるが、裏門というものが見当たらない。


 また、電灯線も電話線も入っていなかった。


 まあ、そうしたことは、無くなはいだろう。


 周囲には、これも白い柵が巡っていて、一応の領域を示してはいる。


 確かに、丘の頂上あたりなのだろうと思う。


 しかし、360度、見渡す限り、何もない。


 文字通り何もない。


 いや、確かに地面らしきは見えるから、宙に浮いているわけではなさそうだ。


 しかし、山も、川も、海も、ないのだ。


 また、建物や、鉄道や、植物も、花咲くこの丘以外には、まったく見えない。


 双眼鏡でもあれば良いのだが、そうした用意はしてはいない。


 では、ぼくは、どこからここに来たのだろうか。


 あなたは、自分自身の最初の存在を感じたのは何時だっただろう?


 ぼくは、おばさんが、お風呂の中で、ぼくを落っことして溺れかけた記憶がある。


 たぶん、それが最初だろう。


 しかし、ここに至る経路は、まるで、解らなかった。


 ここにいる前は、どこにいたのだろう。ぼんやりしていて、はっきりとしない。


 山道。


 低い山の上だった。


 そうだ、あのふたりを見た。


 ありえてはならない風景。


 思い出すだけで、自分のすべてが捻れてしまうような苦痛が走る。




 空はあるが、やはり太陽はない。


 でも、今は明るい。


 寒くはないし、暑いわけでもない。


 しかし、気持ちよいくらいの風は吹いている。


 つまり、すべてが、そんなことは、あり得ないだろう、そう思うのだ。この、家と、ぼく以外は。


 あり得ない場所に、なぜだか、置かれている。


 しかし、やたらに、懐かしくて、居心地は悪くないと感じていた。


 誰もいないのは、とても、素晴らしいことなのだから。


 


 

      🌞オルス

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