第1章 『白い家』 その1


 遥かな丘を昇ってゆくと、


 小さな白い家がある。


 その家は、美しい、永遠に色褪せることのない、色とりどりの花たちに囲まれて、ひとり、佇んでいた。


 そこに近づけるものはいない。


 誰も住むことはできない。


 誰もやって来ることはない。


 時間と空間から切り離されていて、何者にも侵すことのできない、たぶん一種の神聖な場所である。


 しかし、ある瞬間に、その永遠のとばりが破れたのである。


 なぜ。そんなことが起こったのだろうか。


 それは、破った本人にさえ、全く預かり知らぬ事柄である。


 丘の上には、しばしば、なぜだか、気持ちの良いそよ風が吹き抜ける。


 太陽はいなかった。

 

 月も、星々も姿を見せないのに、空は抜けるように高く、淡く輝く。


 にも拘らず、昼と夜は、互いに譲り合うように現れるのだ。


 ぼくは、ふと、その玄関の前に立っていたのだが、まだ、そのような仕組みになっているなんて、思いもしていなかった。


 人もまた、自分が立っているほんの小さな領域しか認識できないものである。


 そうなのにも拘わらず、人は永遠を夢見るのだから、まったく始末に困る訳なのだ。


 だから、ぼくは、仕方なく、呼び鈴を鳴らしたのだった。



       🚪


 



      


 


 


 


 

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