『白い家』 序章・第1章・第2章

やましん(テンパー)

『白い家』 序章

 『これは、基本的にフィクションであります。一部、それ以外があります。』





 なぜ、そうなのだろうか。


 それは、あくまでも、ぼくにしか分からない種類の、事柄なんだろう。


 関係している人は、もちろん、きちんとあるのだ。


 のりちゃんと、としくんである。


 妄想ではない、真実の関係者である。


 しかし、翻ってみれば、ぼくは、果たして関係者なのだろうか。


 敷居の外、枠の外、土俵の外。


 そうした言い方が、実は正しいのではないか?


 夢の中でも、ぼくは、一番大切な場所には、常に立ち入れないのだから。


 ふたりの結婚式。披露宴。


 なんど、夢の中で行われたことだろう。しかし、ぼくは、常にその建物の外にいるだけなのだ。


 けして、核心に踏み込みことは許されないのだった。


 誰が、許さないのだ?


 それは、ぼく以外にない。


 真実がわからないままだから、ぼくは、真実には近寄れないのだ。 


 あのあと、なにが行われていたのか、ぼくは、まるで知らない。


 ぼく、個人からしたら、自分の人生を捨ててしまった、つまりその強烈な原因だったし、30年以上経った今もまだ。その事実が、ぼくを縛り付けている。


 それは、夢を見たときに、実は最高に分かるのだ。


 それが、いかに、絶望的で、破滅的なことであり、しかも、このままの状態で、永遠の闇に、まもなく、

ただ、消えて行くのだから。


 しかし、それは、彼らには関係のないことであろう。



 かつて、ゲーテ氏には、才能と実力と、地位と財力があった。美形でもあった。


 まだ、天才の我儘を、時代も許していたろうし、ゲーテ氏を相手に争うのは大変なことだ。


 ケストナー氏は、勇敢にも実行した。


 なぜ、わが、婚約者を横取りしようなどとするのか?


 なぜ、私のことを、悪く書くのか?


 一時は自殺さえ模索したゲーテ氏であったが、彼には強い理性があり、また、良い友人がいた。


 実に。幸運なことである。


 自らの周囲に、助け船を出してくれる人物があるのは、成功のヒントにもなる。


 その友人は、丁度というタイミングで、ゲーテ氏をイタリアに連れ去り、シャルロットとケストナーはその隙に結婚した。


 ゲーテ氏は、小説の中の自分であるウエルテルを、殺した。


 

 永い年月が過ぎた。


 ぼくは、死ななかった。

 

 死ぬべきだったかもしれないのだ。


 阿蘇山や、平家の落人の村や、人吉、さらに桜島をも回ったが、死に場所を選べなかった。


 情けないことである。


 ああ、なぜ、あの時、のこのこと、帰ってきたのだろうか。


 職場には、あのふたりがいるのだ。そんな場所に帰ってどうする?


 当然ながら、そこの席に座ること自体が、まるで毎日地獄の責め苦のようだった。


 しかし、ぼくは、対応を間違えたのだ。


 間違えなくても、もはや、彼女は帰ってこなかっただろうが。


 ぼくは、尊厳さえ保てなかったのである。


 それは、暖かくなった、初夏の小さなローカルな山の上だった?


 ぼくには、予感があった。


 だから、土曜日の半ドンのあと、山に上がった。


 そんなこと、するべきではなかったのだ。


 しかし、ぼくの明確な予測は、外れなかった。


 ふたりは、山の上から、てをつないで降りてきたのである。


 つまり、完敗だ。


 そりゃあ、わかるよ。


 しかし、これは、ぼくのメンタルが大きく音を立てて、崩れた瞬間でもあった。


 見た目は平静を保ったが、中身は、めちゃくちゃになっていた。


 初夏の赤や青や、緑の美しい花々たちは、あのふたりを明るく祝福し、一方で、ぼくを、呪った。


    🌸🌹🌺🌼🌷🐽 



 『おめでとう。おめでとう。新しい世界へ。麗しい世界へ。』



 『花に見放された人は、ただ、去りなさい。寂しく泣きながら。消えて行きなさい。ここに、あなたが、いるべき場所などないのだ。』



 そうだ。ぼくは、山を降りた。


 そこは、もう。虚無の世界だった。


 職場にも、町にも、ぼくのいるべき場所などは、ないのだ。


 なら、どうしたらいい?


 まさしく、あわれな、お話しである。




      つづく………




 


 


 

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