第3話恋人達

 此処はタロットカードの中。生命の樹の入口に英之と由香里は居た。


 「この生命の樹は何らかの犠牲がもたらされる。貴方の命の恩人の探すには、この生命の樹の頂点まで、登りつめるしかないわね。」


 由香里は英之にそう教えるとタロットカードを手のひらに浮かび上がらせた。


 (タロットカード・・・・・・)


 英之は由香里のタロットカードを手にして、カードをカットし始めた。カットしていると、中から1枚カードが落ちた。大アルカナの『恋人達』である。


 「『恋人達』のカードが示す道を進めという事ね。この道の何処かに犠牲をもたらす何かがあるのね。」

  

 由香里は真っ直ぐと『恋人達』のカードが示す道を歩いて行く。そこへ現状をまだ把握できないでいる英之が後を追う。


 道の半ばで来ると、何処から現れたか、幼い男の子が英之に話しかけて来た。


 「お兄さんは誰を探しているの?その人の為に何が出来る?」


 英之は突然話しかけられ思わず後ずさりした。


 「大丈夫よ。この子は一つの犠牲を与える為に現れたのよ。何かを犠牲にすればこの子は貴方の前から消えるわ。」


 由香里はこの男の子に話しかけた。


 「坊や。タロットカードの『恋人達』が示すキーワードは恋愛。全てが禁断の恋って事よね。英之に与えたい犠牲は何かな?」


 すると男の子は英之の右腕から腕時計を外して、


 「これでいいよ。」


 そう言うと英之と由香里の前から姿を消した。

 英之が腕にしていた時計は時間を自由自在に操れる時計だった。


 「これで俺は時間飛行は出来なくなったわけだ。まぁ〜いい。俺の命の恩人を見つける為だ。どれだけのモノを犠牲にすれば見つかるか?わからないがやるだけの事はやろう。」


 そう呟くと英之は涙を流した。


 (愛しい女の形見を犠牲にするとは・・・・・・)


 奪われた時計は昔、英之を愛してくれた女性が身に着けていた時計だった。女性の思い出はこの時計しかなかった。

 

 英之が涙を流し、女性に変化するとその姿は形見の腕時計の女性だった。


 「英之。自分の姿をみてごらよ。」


 英之の足元の水たまりに映った女性の姿は聖母マリアに似ていた。


 「何故か知らないが涙を流すと女性になるらしい。」


 英之は昔愛した女性こと聖母マリアであった。


 

 


 

 

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