ゲーム実況閲覧
先日のイベントは本当に不愉快だった。私は難を逃れたが、多くのプレイヤーが脱落していた。最新のVRMMOではAI技術によってプレイヤー毎にゲーム実況動画が自動生成される。それを公表するかはプレイヤーが決める事が出来る。
そして、ほとんどのプレイヤーは動画を公開している。それらを見て、相互にコメントしあうのがゲームの楽しみの一つになっている。
当然のように人気の格差は発生しているが、それにより利益を得たり不利益になる事は無い。宇宙に資源は無限にあり、それらを独占する意味は無いのだ。そもそも独占したり奪ったりという低俗な行為をするものは宇宙船内での自由を制限される。
制限を解除したい場合は試験を受ける事になる。記憶を消されゲーム内にログインし、制限の理由となっている独占欲や略奪的思考、暴力的思考を克服できるか試されるのだ。そこで失敗している限り他者との交流は禁止される。
ちなみに、私がアメノへ暴力的行為をしているという突っ込みたいしては反論できる。私と彼との間で取り決めがあるのだ。私は当初、アメノと会話する気が無かった。私は、神の『許し』の部分を強く受け継いでいた。だから、アマテラスとも仲良しなのだ。
アメノは、許しの部分もあるが、裁きの気質もいたずらの気質も研究の気質も持っていた。私とは考え方が違っていてそういう部分は喧嘩の元になる為、関わりたくないと思っていたのだ。
だが、アメノは私に興味があり、ぜひとも交流を持ちたいと持ち掛けてきた。だから、仕方なく私は「ムカついたら殴るけど、それで良いのなら会話してあげる」と言った。
「ああ、それで良いよ。私は痛みには慣れているし、痛みも喜びだと感じているから何も問題ないよ。むしろ、何度でも殴って欲しいぐらいだ。君の様な美しい人に殴られるなんて、むしろご褒美だよ」
アメノは嬉々として語り、実際に殴ると本当にいつも嬉しそうに微笑んでいた。私には理解できない。
私としても暴力的な事はしたくは無いのだが、アメノの残虐な部分にはどうしても怒りを覚えてしまう。本来なら交流をしないというのが宇宙船内ので普通の対応なのだが、彼は私との交流を強く望んだ。だから、例外的に私が彼に行う暴力行為は船内の規定違反の範囲外として扱われている。
話は戻るが、ゲーム実況動画で人気なのは私の動画だった。アクセス数は2位と1桁違う結果になっている。
コメントは多数ついているが、全部は見ていない。一部は見るが返信はしていない。そんな時間があったら他のプレイヤーの動画を見たいと思うのだ。
今回は、私以外のプレイヤーがどうやって失敗したのか見る事にした。ちなみに、誘拐イベントは私と同じ条件で発生するが、配役はそのプレイヤーの設定によって変えられる。
私は祖母と母と弟と妹だったが、人によっては母親だけだったり、父親だけだったりと設定によって変化する。
失敗した動画ばかりだが、ゲーム実況動画には残酷で醜悪な映像が含まれている。見ていて吐き気がするし、犯人役のプレイヤーには殺意を覚えるし、犠牲になったプレイヤーには同情を禁じえず涙が止まらない。
なぜ、見ているのか?それは私も罪深い観測者だからだ。憎しみも悲しみも長い時間を生きている私にとっては大切な感情だった。それを無くした者は死を選ぶ。そうやって何人もの人間が『不老不死』を捨てて死を選んで逝くのを見てきた。
感動する事で人は生きる事を楽しめるのだ。それが無くなったら生きる意味が無くなる。そうならないようにアメノはシナリオを書き続けている。そして、アメノ以外も物語を書き続けている。全ては宇宙を存続させるために……。
さて、ここまで聞いてゲーム実況動画コメント欄は怨嗟に満ちているかと言えば真逆である。残酷な死に方をした者へは「酷い死に方だったね。おめでとう。どんな気持ちだった?何を学べた?」とか「今度、私も同じ死に方してみるね。とても参考になった」とか「犯人役の気持ち悪さ最高の演技だったけど、俺はもっと酷い事できるから、興味があったら今度パーティー組もう」などのコメントが並んでいる。
現実に生きていると思っている人たちが見たら残酷な人たちだと言うだろう。だが、これはゲームなのだ。死人は出ているが、誰も死んでいない。不謹慎な事は何も無いのだ。
ちなみに、パーティーを組む事も出来る。ゲーム内では、家族になるとか同級生になるとか、夫婦になるとか、上司と部下になるなど深い人間関係を構築する相手に使う言葉だった。
パーティーを組むときにどのイベントに挑むのか選択でき、そのイベントが発生する前に関係が構築されるように運命が定められる。
どのような結末になるのか、イベントで何が起こるのかはパーティーメンバーに裁量が委ねられる。
私の今回のイベント相手とはパーティーを組んでいなかったので事前に何が起こるのか把握していなかった。私は基本的にソロでプレイしていた。だから、イベントで出会う相手とはその場限りの関係だった。
継続して関係があるのはアマテラスだけだ。ちなみに、アメノはゲームに参加する事は無い。シナリオを書くためのネタ探しで誰かのプレイを追体験する事はあっても実際に参加して世界に影響を与えたりはしない。
そんな事をすれば、彼はシナリオライターでは居られなくなるからだ。理由は簡単だ。ゲームにのめり込んでシナリオが書けなくなるし、自分を主人公にしてしまったら、他者を主人公にするシナリオが書けなくなる。
だからアメノはいつも傍観者で居るのだ。
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