誘拐の危機と忍耐力
私が8歳の時、家族で町のデパートに行っていた。母と祖母と私と弟と妹で行ったのだが、母と祖母はデパートで自由に見て回りたいが、その日はとても混んでいて、子供3人を連れて見て回るのは困難だと判断し、私と弟と妹を椅子があるエレベータホールに残して買い物を先に済ますことにした。
「良い?すぐに戻ってくるから、ここで待っているのよ」
私はうなずいた。弟は「うん」と言い。妹は「分かった」と返事をした。祖母と母はそのまま買い物に出かけた。
私は弟と妹と手を繋いで椅子に座って帰りを待っていた。
だが、女性の買い物は時間がかかる。10分もしない内に弟が待って居られなくなり立ち上がった。
私が「どうしたの?」と聞くと弟は「飽きた母さんを探しに行く」と言った。
「ダメだよ。待ってないと」
「あと何分?もう飽きた」
「もうすぐだよ」
「嫌だ!母さんを探しに行く!」
そう言って、私の手を振り払って行ってしまった。そんな弟を見て妹が言ってきた。
「私も行く!」
「ダメだよ。待っていないと」
私は妹だけでも引き留めようとしただが……。
「嫌だ!私も行く!」
そう言って妹も手を振り払って行ってしまった。
私は一人で椅子に座って待っていた。妹と弟が迷子になるのは明白だった。ここで自分まで居なくなったら、祖母も母も困るだろうと思ったので、待つことにした。
エレベータホールの椅子には色んな人が座っていた。私はパッと見ただけでは男の子か女の子か分からない中性的な容姿をしていた。弟と妹が居なくなった席に見知らぬおっさんが座った。そして、私に声をかけてきた。
「君、何歳?」
「8歳」
「可愛いね。お母さんはどこに居るの?」
「分かんない」
「お父さんは?」
「分かんない」
「買い物に行っているのかな?」
「うん」
「どれくらい前に行ったの?」
「10分」
「何時に戻ってくるって言ってた?」
「すぐに戻ってくるって言ってた」
「おじさんと一緒に屋上の遊園地に行こうか」
「お母さんが、買い物終わったら連れて行くっていてたから、お母さんが来たら一緒に遊びに行こう」
私には悪意が無く善意でおっさんを遊びに誘った。
「先に、一緒に遊びに行こうよ」
「みんなで一緒に遊んだほうが楽しいよ。おじさんも一緒に待とうよ」
私の純真無垢な善意の提案に、おっさんは困った顔をしていた。
「そうか、偉いね~。お嬢ちゃん。お腹空いていない?飴玉上げようか?」
お嬢ちゃんと言われて、僕は男の子なのに何でお嬢ちゃんって言ってるんだろう?と疑問に思ったが、私は細かい事は気にしない性格だったので、問い詰めはしなかった。そもそも、腹は減っていないし、母の言い付けを破って動くつもりは無かった、
「要らない」
「そうか、暇ならおじさんと遊びに行かないかい?デパートの5階に遊園地があるんだ。行ってみないかい?」
一回断ったのに、おっさんは私に言ってきた。
「行かない」
「どうして?楽しいよ?」
「母さんが待ってて言ったから」
「でも、弟も妹も居なくなったよね?おじさん見ていたよ。だから君も遊びに行っても大丈夫だよ」
確かに、弟も妹も身勝手に居なくなった。でも、私は母との約束を反故にする事は悪い事だと知っていたの。
「ダメだよ。僕まで居なくなったら母さんが困る」
「僕?君、女の子じゃないの?」
「違うよ。男の子だよ」
「え?本当に?女の子じゃないの?」
私は、小学生の時、背も小さく中性的な容姿をしていた。床屋に行くと必ず「女の事ですか?男の子ですか?」と聞かれるほど、見分けがつかない姿をしていた。だから、その質問に対する答え方を知っていた。
「うん。違うよ」
「本当に?嘘を吐いていない?」
「嘘じゃないよ」
「え?じゃあ、名前を言ってごらん?」
「アニだよ」
「変わった名前だね~。男の子か女の子か判断できないよ」
「男の子だよ。ゲーム好きだし」
「何のゲーム?ゲームの名前言える?」
私は、その時に実際に遊んでいたゲーム名を伝えた。
「そうか、本当に男の子なんだね。可愛いから女の子かと思ったよ」
「違うよ。靴を見てよ。男の子のモノだよ?」
「ああ、本当だ。そっか、男の子か、おじさん用事があるからもう行くね」
これが、人生で最初で最後の誘拐未遂事件だった。
今、思い返すと、本当に吐き気がする会話である。男の子で良かった。ちなみに、弟は迷子になり、妹は母と合流して戻ってきた。私は母に待っていた事を褒められ、好きなお菓子を買って良いと言われたが、妹がズルいと騒ぐので、要らないと言った。
その後で、デパートの5階でウルトラマンセブンの歌が収録されたカセットテープを買ってもらい、遊園地を楽しみ何事もなく帰った。
===カグヤからの苦情===
カグヤは激怒していた。アメノを探して船内を鼻息を荒くして歩いている。
「アメノはどこだ!」
案内板のAIに居場所を探させる。
「艦橋に居ます」
AIは優しく答えてくれた。
私は艦橋に行きアメノを見つけた。アメノの周りには数人ファンが居て談笑していたが、私は構わずにずけずけと歩み寄り、会話しているのも構わずに右ストレートをアメノの顔面に叩き込んだ。吹っ飛んでいくアメノと呆然とするファンたち。
「あの、カグヤ様ですよね?一体何が?」
ファンの一人が私に声をかけてきた。
「苦情を言いに来たのよ」
「苦情ですか?あのただ殴ったようにしか……」
「言葉はこれから伝えるけど、まず殴らないと気が済まなかったのよ」
私は、怒りを抑えて冷静に答えた。
「そうですか、では私たちはこの辺で失礼しますね」
恐怖に引きつった顔でファンたちは退散していった。
「はっはっはっ、良い右ストレートだったよ」
アメノはいつも通り満面の笑顔で立ち上がってきた。
「無事だったが一応聞いてやる!もし、私が男に付いていた場合、どうなっていたか言え!」
「そんなの決まってるじゃないか。連れて帰って男だと分かる。顔も見られている。家もバレている。後は分かるよね?」
「この!人でなしが~~~~~~!」
私は、一瞬でアメノの懐に潜り込み全力のボディーブローを放った。アメノは悶絶しながらも恍惚の表情を浮かべていた。こうなると、もう私に殴られる為に、クソの様なシナリオを考えているように思えて仕方がない。
「いや~。でもさすがだね。無事に切り抜けるとはね。忍耐力の無い子供だったら付いて行ったよ。さすが魂を磨き上げ素直な魂を持ったカグヤだね。自分の楽しみよりも母親との約束を優先した」
「力ずくで来られたら、どうにもならんだろうが!」
「まあまあ、その為の男の子設定だし、いざとなったらアマテラスの介入も認めていたから、酷い結果にはならなかったよ」
「本当にそうか?最近のシナリオでバットエンドが過激すぎると苦情が入っているぞ?」
「いやいや、さっき来た子たちは初めての体験で刺激的だったと評価してくれてたよ」
「過激なのは私は好きじゃない」
「君は、そうだろうね。でも、他の人たちは違う。誰も彼も君やアマテラスの様に平和を楽しめる訳ではないからね」
そうだ。この世界には酷いことを楽しいと思う人たちも居る。それも神の一部なのだ。否定は出来ない。だが、私はそういう性質では無かった。それも事実だ。矛盾しているが、完全とは全ての矛盾を内包している状態の事だ。だから、世界は完璧なのだ。
なので、私はアメノを否定はしない。
「今のイベントのクリア率は?」
「1%」
「そんなクソ難易度で人気出ているの?」
「それが、好評なんだよ!意外だろう?」
「なんで?」
「君の様にクリアする者が居るからだよ。確かに難易度は高い。でも、ちゃんとクリアできるようにはしているんだ。だから、面白いんだよ」
アメノは笑顔で語った。
私は、その笑顔が気に入らなかった。最初に約束したシナリオの変更権、これでアメノに一矢報いる。その為に私は今日もクソゲーにログインするのだ。
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