第13話 助けなんていらない
「う……。げほっ! うぐぅ……!!」
「雪宮さん! 目を覚ましたか!」
サメ型の怪異から距離を取って地面に寝かせたところで、雪宮さんは意識を取り戻した。
彼女は水を吐き出し、激しく咳き込んでいる。
俺は慌てて背中をさすってあげた。
「ごほっ! はぁ……はぁ……。あ、浅倉君……?」
雪宮さんは目を丸くしている。
まぁ、無理もないか。
三ヶ月前には共に怪異を倒した仲とはいえ、それ以降はまともに会話すらしていないからな。
そんな男が影の世界で、自分を介抱しているのだ。
驚くのも無理はないだろう。
「……ふんっ!! 気安く触らないで!」
パシン!!
雪宮さんは、俺の手を払いのけた。
そして、よろよろと立ち上がる。
「……助けなんていらない。私は自分の力でなんとかできるもの」
雪宮さんは吐き捨てるように言った。
ちょっと予想外の反応だ。
彼女はクール系のクラスのアイドルなので、満面の笑みで感謝されるとは思っていなかったが……。
これほどまでに拒絶されるとも思っていなかった。
三ヶ月前の事件でも、ある程度の協力姿勢は見受けられた。
だが、今の彼女には、そんな様子は微塵も感じられない。
まるで別人のようだ……。
「……雪宮さん」
俺は呼びかけるが、返事はない。
彼女は右手で剣を持ち、左手で鞘を持った。
「宿主のいない影……。ああああぁっ!!」
雪宮さんは怒りの叫び声を上げながら、地面に何度も剣を突き立てる。
コンクリートが砕け、地面に大きな穴が開いた。
そして彼女は大きく息を吐き出すと、俺に向き直る。
「宿主のいない影……」
雪宮さんは剣の切っ先を俺に向けた。
彼女はいったい何に怒っているのだろうか……?
繰り返し『宿主のいない影』と口にしているが、その意味はいったい……?
分からないことばかりだ。
「……とりあえず落ち着こう。今の雪宮さんを放ってはおけない。君は怪我をしているし、錯乱気味だ。俺に怪異討伐を手伝わせてくれないか? 微力ながらも、少しは役に――」
「うるさいっ!! うるさいうるさいうるさい!!!」
雪宮さんは叫ぶ。
その目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「人の力なんて借りない。自分でやる。『あいつ』に見せつけてやるんだから……! 私は負けない!!」
「あいつ……? いったい誰のこと――ッ!?」
ザシュ!
雪宮さんが振るった剣が、俺の頬をかすめる。
殺意はなかったようだが、それでもかなりの迫力だ。
俺は慌てて飛び退く。
「くっ……!」
「浅倉君……。あなたを傷つけるつもりはないわ。でも、邪魔をするなら容赦しない」
雪宮さんの表情は真剣だった。
俺は思わずたじろぐ。
その隙に、彼女は怪異に向かって走り出した。
「ま、待ってくれ!!」
俺は慌てて追いかけるが、もう遅い。
雪宮さんは勢いよく跳躍し、怪異に斬りかかった。
――ガキンッ!!
激しい音が響く。
雪宮さんの剣と、ハンマーヘッドシャークの頭部が交差した。
「はああああぁっ……!!」
雪宮さんは渾身の力を込め、怪異を攻め立てている。
かなり力強い攻撃だ。
しかし、荒削り過ぎる。
(あの戦いのあと……雪宮さんに何かあったのか……?)
俺は眉をひそめる。
雪宮さんの戦い方は、素人の俺が見てもお粗末なものだった。
以前のような繊細さはなく、とにかく力任せに剣を振り回しているだけ。
幸い、怪異の視力が完全には戻っていないことが影響しているのか、今のところは優位に戦いを進めているが……。
怪異が万全の状態なら、返り討ちにあっていたかもしれない。
「雪宮さん! もっと慎重に……」
「うるさぁぁいっ!!」
俺のアドバイスも、雪宮さんの叫びにかき消されてしまった。
彼女は一心不乱に剣を振るう。
その姿は、どこか痛々しい。
それでも、雪宮さんは攻撃の手を緩めようとはしなかった。
「はぁ……っ! やあああぁああっ!!」
彼女の渾身の一撃が、怪異の頭部に叩きつけられる。
その一撃で怪異は真っ二つとなり、消滅した。
「はぁ……っ! はあ……っ!!」
雪宮さんは荒い呼吸をしている。
かなりの体力を消耗したらしい。
「雪宮さん! 大丈夫?」
「近づかないで!!」
俺は慌てて駆け寄った。
だが、彼女は俺を拒絶すると、フラフラとした足取りでゲートに向かって歩いていく。
俺もすぐに追いかけた。
――プシャアアアァッ!!
俺と雪宮さんは、たくさんの水と共に表世界へと帰還した。
一瞬だけ溺れそうになり、慌てて水面に顔を出す。
「ぷはっ!」
俺は大きく息を吐き出すと、辺りを見回した。
もう異変はない。
いつも通りのプールだ。
そして、雪宮さんの様子は……
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