第4話 影の世界
「なっ……階段!? ぬあああぁーっ!?」
影に飛び込んだ先には、階段があった。
予想外な事態に、俺は足を踏み外してしまう。
そのまま勢いよく転げ落ちてしまった。
「痛ぇ……。くそう……」
俺は呻きながら体を起こす。
まさか、影の中に階段があるなんて……。
当たりどころが悪ければ、死んでいてもおかしくなかった。
「ふっ……。歴戦のイジメられっ子である俺を甘く見るんじゃない」
俺を見くびってもらっては困る。
さすがに階段から突き落とされたことはなかったが……。
擦り傷切り傷を回避する術は熟知しているのだ。
「……いや、誇りたくねえな。こんなの」
俺は自分のドM体質に呆れる。
そして気を取り直し、立ち上がった。
「とにかく雪宮さんを探そう……。彼女はどこに行ったんだ?」
辺りを見渡すと、そこは公園だった。
さっきと同じ場所だ。
はて?
公園にある影に飛び込んだら階段があって、それを転げ落ちたらまた公園?
「いや、どういうことだよ……?」
俺は首を傾げる。
理解が追い付かない状況だった。
「ん……? よく見れば少し違う公園だな……」
遊具や道の配置は変わっていない。
だが、少し離れたところに黒い壁がある。
まるで、迷い込んだ者を影の世界から逃がさないように……。
「……まぁいい。とにかく、まずは雪宮さんを探そう」
俺は黒い壁のことは一旦保留にする。
まずは、雪宮さんを探すべきだ。
俺が歩き出そうとした、その時だった。
ガキン!
キィン!
そんな音が聞こえてきた。
明らかに、何かを打ち付ける音だ。
「こっちか……!」
俺は音がした方へと走り出す。
すると、大きな広場に出た。
そこにいたのは――雪宮さんだった。
「雪宮家に伝わる神聖な刀……。この程度の怪異に負けるなんて許されない!」
彼女は刀を空に掲げる。
すると、暗い空に大きな光の剣が現れた。
その剣は、とても美しい。
まるで、邪悪な存在に審判を下すかのように……。
「あなたの苦しみを終わらせてあげる。行くわよ! 私の愛刀――【夢幻氷刃】!!」
雪宮さんはそう言って、剣を振り下ろした。
それと同時に、大きな剣が黒い影を斬り裂いた。
「グギャアアァーッ!」
影の断末魔の叫びが響き渡る。
明らかに、大きなダメージを与えていた。
「す、すげぇ……!」
俺は思わず感嘆の声を漏らす。
この様子なら、もう安心だろう。
雪宮さんが優勢だ。
しかし、俺はあることに気付く。
黒い影が徐々に小さくなっていき、中から人が出てきたのだ。
それは、どこかで見たような女性だった。
「あの人は……」
俺はすぐに思い出す。
夢に出てきた、クラスメイトのギャルだ。
「ミーちゃん!?」
間違いない。
あれはミーちゃんだ。
「次でトドメよ。はあああぁ……!!」
「雪宮さん! ちょっと待ってくれ!」
俺は慌てて2人の間に入り、叫んだ。
戦いを止めるためだ。
「ちょっ!? 浅倉君!? どうしてここに――」
ドオオォン!
雪宮さんの声は、激しい攻撃音に掻き消された。
俺は吹っ飛ばされてしまう。
体を打ち付けた痛みはあるが、切られた様子はない。
どうやら、雪宮さんが直前で攻撃の軌道を変えてくれたらしい。
「うぐっ……! 雪宮さん、助かった……」
「お礼はいいから、早く離れなさい! 私の邪魔をしないで!!」
雪宮さんは俺に向かって叫ぶ。
彼女は焦った様子で、俺に怒鳴りつけた。
「邪魔って……!? 彼女は俺たちのクラスメイトだろう!? どういうつもりだ!!」
俺は立ち上がりながら反論する。
だが、雪宮さんは聞く耳を持たなかった。
「浅倉君、あなたも功績狙いなの!? ダメよ、これは私の獲物だもの!」
「何を訳の分からないことを……!」
「あなたは陰陽師の名家の生まれでしょう!? 今さら功績なんて要らないはず! 雪宮家の再興を邪魔しないで!!」
「陰陽師の名家……!? 再興!? さっきから、何の話をしているんだ!」
俺は怒鳴る。
雪宮さんが何を言っているのか、全く理解できない。
どういうことだ……?
俺が戸惑っていると、後ろから声が聞こえた。
「ククク……。時間を稼いでくれてありがとう。お礼にお前を食べて、力にしてあげようぞ、少年」
「なっ……!?」
ミーちゃんが不気味な声で笑う。
その目は完全に人のものではなく、手には長い爪が伸びていた。
彼女はこちらに襲い掛かってくる!
「危ないっ!」
「っ!!」
俺は間一髪のところで、雪宮さんに突き飛ばされた。
ミーちゃんの爪が雪宮さんの頬を掠める。
頬には赤い筋ができていた。
「……これで分かったかしら? 彼女はもはや私たちの知るクラスメイトではないのよ。彼女の魂は怪異と混じり合ってしまった。もう救うことはできないわ」
「っ……!?」
雪宮さんは刀を構える。
俺は彼女の言葉に、思わず息をのんだ。
(魂が混ざり合っている……だって?)
俺の脳裏にはミーちゃんの顔が浮かんでいた。
彼女は、俺をからかっていたギャル集団の一員だ。
しかし今思えば、彼女の笑顔に助けられたこともあったかもしれない。
「ククク……。食事は邪魔されてしまったか。だが、お前も限界が近いようだな。髪が黒くなり始めているぞ?」
「ご心配ありがとう。でも、あなたごときの怪異が相手なら、これで十分よ」
ミーちゃんの言葉に、雪宮さんは鼻で笑う。
会話の内容がよく分からない。
雪宮さんの髪は、銀のロングヘアーだ。
それは今も変わらないはず――
「っ!?」
俺は思わず息を飲んだ。
彼女の髪の先端が、黒く変色していたのだ。
「あなたで100体目……。さっさと終わらせるわ」
「クク……。その驕りが命取りになる……!」
雪宮さんとミーちゃんの戦いが始まる。
俺は何もできないまま、それを見ているしかなかったのだった。
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