第3話 炎と刀
俺は学校を出て、夢で異変を見た公園に向かう。
随分と長い昼寝をしてしまっていたようで、もう夕方だ。
周囲はすっかり暗くなりつつある。
「はぁ、はぁ……。そ、そこそこ遠いな……」
俺は額の汗を拭う。
夢なんて、本来はどうでもいい。
ただ、今はこの妙な感覚を確かめたい。
俺は公園を目指し、全力で走っていく。
「ふぅ……。確か、この公園のはずだが……」
俺は記憶を頼りに、目的地に辿り着いた。
とりあえず入口付近を見るが、特に異常はないようだ。
「間違いなく、夢で見たのと同じ公園だよな?」
ここは大きめの公園だ。
しかし、夕方ということもあってか、人の気配はなかった。
街灯が寂しげに照らしているだけだ。
一人で来るには、不気味な感じがする場所である。
「さて、どうするかな……」
俺は公園に入り、ざっと見回す。
やはり誰の姿も見えない。
「まぁ、とりあえず一周するか」
俺はゆっくりと歩き始める。
この公園は広く、入口付近を見るだけでは判断できない。
公園の奥の方に進んでから、戻ってこよう。
「街灯はあるが……。木々が鬱蒼と生い茂っていて薄暗いな。スマホの光を頼りに行くか……」
俺は公園内をふらふら歩く。
だが、誰もいない。
遅めの時間ということもあるだろうが、それにしても異様に静かだ。
思わず緊張が高まる。
「ミーちゃんとかいうギャルも……いないみたいだな」
やはり、あれはただの夢だったのだろうか?
普通に考えれば、そう考えた方が自然だろう。
俺は不安になりつつも、更に進んでいく。
何も異常は見つからない。
「やっぱり、ただの夢だったのか?」
俺は立ち止まる。
これ以上、あてなく歩いても無駄な気がする。
俺が諦めて戻ろうとした――その時だった。
「っ……!?」
公園のさらに奥の方から、嫌な気配を感じた。
背筋が凍るようなおぞましい感覚だ。
それと同時に、人の気配も感じられた。
「誰か……いるのか?」
俺は恐る恐る、気配のする方に向かって歩き出す。
そして、木々が生い茂る場所の奥に辿り着く。
すると、そこには意外な人物がいた。
(雪宮さん……!?)
公園の奥には雪宮さんがいた。
長い銀髪を揺らしながら、彼女は何かを調べるように歩いている。
そして彼女は、何もないところで足を止めた。
「ふふ……。私の感覚は誤魔化せないわよ。……このあたりみたいね」
彼女は小さな声で、何かを呟いている。
俺は反射的に物陰に隠れてしまった。
(一体何をしてるんだ?)
俺は木に隠れながら、彼女の様子を窺う。
そして、気付いた。
(あの場所は……! ミーちゃんが影に飲み込まれた場所じゃないか……!!)
俺は目を見開く。
雪宮さんが立っている場所が、夢でミーちゃんが影に飲み込まれた場所だったからだ。
(まさか、そんな……!?)
俺は自分の目を疑った。
だが、何度見てもあそこは夢で見た場所そのものである。
(やはりただの夢じゃなかったのか……!?)
俺の鼓動が早まっていく。
そんな俺を他所に、雪宮さんは静かに笑った。
「この怪異を討伐すれば、いよいよ目標数に……」
彼女の口から、聞き慣れない単語が飛び出す。
俺は思わず眉を顰めた。
(『怪異』……? 一体、何の話をしているんだ?)
言葉自体の意味は知っている。
だが、それはあくまで漫画や小説に登場するものだ。
(雪宮さんは、何か知っているのか? 俺が夢で見た場所で、怪異がどうとか呟くなんて……。ただの偶然なのか……?)
俺は雪宮さんの動向を注視する。
彼女は左手で二本の指を立てた。
「揺らめく炎よ、この指に灯れ――【焔華(えんか)】」
彼女は呪文のような言葉を唱える。
続けて、指をパチンっと鳴らした。
(え? な、何が起こって……!?)
俺は目を疑うような光景を目にする。
彼女の指先から小さな炎が灯り、暗闇を照らし出したのだ。
その炎は白い花弁のような形をしていた。
続けて、彼女は宙空に向けて右手を振り上げる。
「来なさい。私の愛刀――【夢幻氷刃(むげんひょうじん)】!」
その言葉と共に、彼女の右手に一本の刀が現れた。
刃も柄も全てが純白の刀で、とても幻想的だった。
(何だ……!? あの刀はどこから現れたんだ……!? いや、そもそも今の時代に刀なんて……)
俺は思わず息をのむ。
彼女が何もない空間から、刀を取り出したように見えたからだ。
「左手に炎、右手に氷。混じって――弾けなさい!!」
雪宮さんは白い炎を刀身に纏わせる。
その瞬間、周囲をまばゆい光が包み込んだ。
(な、何だ!? これは!?)
俺は咄嗟に目を手で覆う。
その直後――
「グギャアアァッ!!」
「やはり私の感覚は正しかったわね。見つけたわよ」
「ギャオオオオォォオッ!?」
おぞましい叫び声が聞こえてきた。
(い、今のは……!?)
俺は恐る恐る目を開ける。
雪宮さんは、怪異とやらと戦っているようだ。
さっきの光で怪物をあぶり出し、刀で追撃したのだろうか。
そして今。
彼女の近くには、大きな影がある。
夢で見たのと同じ、人を飲み込んでしまいそうな大きな影だ。
「あら……? 影の世界に誘い込もうって魂胆のようね。上等じゃない。受けて立つわよ!!」
雪宮さんはそう言って、影に向かって飛び込む。
彼女は、そのまま影の中に姿を消してしまった。
「なっ……!? 何が起こったんだ!?」
俺は呆然とする。
さっきから、何が何だか分からない。
混乱しながらも、雪宮さんが飛び込んだ場所へ急ぐ。
その影は、徐々に小さくなっていた。
「どうする!? え、ええい! 迷っている暇はない!!」
俺は勇気を出して、影に飛び込む。
そして、雪宮さんが向かった先――影の世界へ入っていったのだった。
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