第7話 「凛音ちゃんも行くよね!?」


「え!いいじゃん。私も行きたい。というかクラスみんなで行こうよ!」


 みどりは西田の言葉を受けてすぐさまクラスにも響きそうな大きな声で賛同の意を示した。


「はい?」


 クラスみんなで行く?


  正直みどりにこの話を聞かれた時点で俺はどっちにしろ詰んでいた。クラスで行こうが、個人で行こうが結局みどりが付録として確実について来て、お金と時間は削られる。まあ……、西田の友達の家に長期滞在が可能だろうが不可能だろうが、どちらにせよまだみどりと行った方がマシだろう。結局みどりは配信で家に帰ることになるしな。後、クラス合宿とか絶対行きたくない。


 俺がしないといけない事はクラス合宿を阻止することだ。


「無理だろ、そんなこと」


 ピンク色のおさげが跳ねるように揺れ、彼女の目は輝き、希望と期待で頭の中で満ちている対して、俺は冷静に現実的な問題を口にする。どうにかして、みどりの希望を打ち砕く役目を果たさなければならなかった。


「そもそもいつ行くんだよ、クラスで行くにしても夏休みだと部活とか夏期講習があるから多くの人参加できないだろ」


 教室の片隅に座っている俺は、腕を組みながらみどりに向かって話す。みどりはその言葉に一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐにまた元の輝きを取り戻した。


「うーん……。でも、私たちの学校って特進科だけ三週間後の夏休み入ってすぐに二泊三日で学校で寝泊まりする勉強合宿があるじゃん?……その日をレクリエーションっていうクラスの親睦合宿にするよう先生に頼めばいいんだよ!」

「そう言えばそんな行事あったけ」

「あったよお」

「まあ、それだと元々組み込まれていた学校行事だから誰も文句言えないか」


 やべえ、みどりに説得されている。なんか負けた気がしてきた。心なしかみどりの顔が勝ち誇った顔のように見えてくる。しかし、いくら自由を謳っている校風だとはいえ、そこまで融通が利くものなのか……。


 考えあぐねている俺に、西田が右わき腹がかゆいのか右手でかきながらみどりの意見に賛成する様子を見せる。


「面白そうじゃないか?勉強合宿なんてだーれも望んでないし、先生に提案する価値あるだろ」

「そうそう!もともとある行事ならスケジュール調整も問題ないし、勉強ばっかりの二泊三日じゃなくて一泊二日でもこっちの方が楽しそうじゃん!そしたら例年の合宿より期間短いし、全然問題ないじゃん!やばっ私天才かも!」


 そう言って凛音はすぐに胸は張った。うん、胸を張るのやめようね。いまにもシャツが爆発してボタンがどっかに飛んでいきそうな勢いだ。西


「ちょっと先生に聞いてみるね!というか先生ってどこいるんだっけ?」


 風に舞う蝶のように慌てふためいているみどりに、隣の席に座って読書をしていた凛音が読書の手を止めて少し不機嫌な顔をして口をはさむ。


「……はあ、全く。さっきから騒々しいわね。先生なら職員室に居るわよ」

「ありがと、凛音ちゃん!もし決まったら凛音ちゃんも行くよね!?」


 みどりが明るい声で問いかけると、凛音はふっと俺の方を見る。彼女の瞳は一瞬だけ鋭さを帯び、その視線に俺は少し身をすくめる。ふえぇ……怖いよお……と慄いていると『好意』のバラの香りがふわりと漂った、凛音の存在感が一層際立つ。


 凛音は一瞬の沈黙の後、平然とした顔で答えた。


「ええ、学校行事なのだし……どちらにせよ行くわ」

「だよね!ありがとう」

「感謝される事では……」


 みどりは再び笑顔を見せ、その瞬間に凛音の返事も聞かずに、嵐のように過ぎ去って職員室に向かった。彼女の背中を見送りながら、俺は心の中でため息をつく。やっと西田と話せるな。


 みどりが去った後、教室は一瞬だけ静かになり、俺は腕を組み直して椅子に深く座り直す。凛音は再び読書に戻りる。何事もなかったかのようにページをめくる音だけが静かに響く。


 俺は西田に目を向け、静かに呼びかける。


「西田相談があるんだが、山谷町のいる友達と俺が泊まり込めるようにしてくれないか?」


 西田はまだ右わき腹をかきながら、少し驚いた顔をする。さっきからずっとかいてるな。蚊にでも刺されたのかよ。それとも汗疹あせもか?体育の時間で走ってるとパンツのゴム紐の締め付けでかゆくなるんだよな。新陳代謝が活発な子供によくできるらしい。


「んあ?まあいいけど。多分あいつなら大丈夫だろうし」

「お前ももちろん来いよ」


 俺の提案に、西田は少し考え込むように眉をひそめるが、すぐに頷いた。


「まあ、暇だしな。久しぶりにそいつとも遊びたいし」


 彼の返事に、俺はほっと胸を撫で下ろす。


 その後も適当に西田と雑談をしていると、教室の外から走ったような足音が段々と近づいてくるのが聞こえた。


「(足音で分かる。絶対みどりだな……)」


 俺と西田が同時に教室の扉の方に視線を向けると、ちょうどドアが勢いよく開いて、目の前に凛音が現れた。凛音はその瞬間、両手をグッと拳にしてポーズを取る。 


 そのポーズを見て思わず目を見張った。


「まじかよ……」


 さすがに自由すぎじゃないか、俺たちの学校。



◆◆◆


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