第6話 「証明したいだけなんだ」
俺は一息つき、西田とキャンプ地に行くことと、友達に俺を繋げてくれるよう提案するために口を開く。
「西田……」
「なになにー、何の話してるのー?」
まるで計算されたかのようなタイミングでみどりが俺たちに話しかけてきた
相も変わらず、みどりからはカメムシの匂いが漂ってきたので舌を嚙んで匂いをキャンセルをする。やはりどう考えても俺にとって一番不快感のある匂いだ。
俺は自分の特異体質について考える。俺に対して好意を持っている人はバラの香り、普通の人は雨の匂い、嫌いな人は焦げ臭い匂いがする。
これは俺の匂いの好みとリンクしていると最近考えている。俺はバラの香りが好きで、雨の匂いは特に何も感じない。焦げ臭い匂いは嫌いだしな。そしてカメムシの匂いは焦げ臭い匂いより断然嫌いだ。
信じたくはないが……昼休みの用具倉庫横でふと考えてから、今日に至るまで何度も思考を回しても、『みどりが俺を憎んでいる』という結論に行き着くのが一番シンプルで辻褄が合うのだと感じた。
どうしても自分の特異体質を一番信用している為そう思ってしまう。だが、その一方で、キャンプ地のカメムシ怪現象とみどりから漂うカメムシの匂いを結び付けて現地に
つまるところ、俺はキャンプ地の調査を通じて自分の特異体質について何かを解明し、『みどりのカメムシの匂いは俺のことが異常に嫌いだという意味ではない』と証明したいんだ。
みどりが俺に対してどういう感情を持っているのか俺は知りたい……と今まで思っていたが、違うと確信する。
みどりが俺の事を憎んでないと証明したいだけなんだ。
みどりがこの話題に割って入ってきたら、「楽しそう!」と言って同行する未来がありありと見える。それだけは避けたい。みどりが一緒だと確実に調査は捗らない、後うるさいし。
だから俺は、みどりの興味のないサッカー漫画の話題で注意を逸らそうと口を開いた。
「いやー、あのーあれだよあれ。レッドロックの話してた。昨日最新号読んで熱くてさー」
頼む!俺に話を合わせてくれ!俺は西田に訴えかけるような眼差しを送り、心の中で神に祈った。すると──
「なにいってんだおめえ、山谷町のキャンプ地の話してただろ」
くそっ、マジで糞だなコイツ。俺の意図を全く読めないポンコツキャラである西田は俺の事を馬鹿にするような顔で見つめてくる。その馬鹿にするような顔は失敗した福笑いに似ている。なんだその顔。腹立つなあ。
「なんで噓ついたの?」
みどりが俺の顔を覗き込み、冷たい声で刺してくる。みどりがこんな冷たい声を出せるなんて知らなかった。鳥肌が止まらない。
俺は歯を舌から離して話す。あー、水素の音~。ならぬカメムシの匂い~。
「いや別に何でもいいだろ……」
そう言いすぐ舌を嚙む。
「ふーん」
視線が鋭い。人を見透かすかのような鋭い視線だ。なんだよ「ふーん」って。えっち前リョーマですか?「ふーん、えっちじゃん」とでも言うおつもりですか?
次の瞬間、みどりの表情が一変する。いつもの柔らかいみどりの顔に戻る。
「いつから平気で噓をつくようになったのお~。私悲しいよお~」
彼女は突然俺にがばっと抱きつき、俺の首に両腕をクロスしてロックする。その瞬間、教室中のクラスメイトの男子から、槍でも飛んできたかのような鋭い視線が俺の心臓を突き刺してくる。
ええい、やめい!ちょっ!不可抗力ですぅ!俺は心の中で叫ぶが、どうすることもできない。
てか、大きな胸が当た……当たってるめう……
くそっ、柔らかい……まるで
一言でまとめると……俺の死に場所はここだって感じ。
俺はここで死のうと確信した。
「で、山谷町のキャンプがどうしたの?」
俺をロックしたまま、みどりは西田に顔を向け質問する。彼女の声が耳に届き、意識を無理矢理覚醒させる。
「(あぶねっ!この女俺にハニートラップを仕掛けやがった!)」
俺が死に場所を決めている間に、話を強制的にキャンプ地に戻す荒技。みどりは登録者百三十万人を最近突破したVtuberだ。こういう稀に出る
名残惜しくも俺は桐箱入りの一級品と価値が等しいであろう胸元から離れ、みどりが俺の首にクロスしていた両手をどかすと、柔軟剤の香りがふわっと漂ってきた。
柔軟剤アミングの香りがするな……うむ、良い匂いやけん、ばりすいとーよ。
良い匂い過ぎて思わず福岡出身のDJが頭の中で出てきた。九州魂最高ばい!
みどりの質問にアホな西田がアホ面を晒して答える。
「ん?なんだっけ?あーそこ行きたいなあみたいな話してた」
そんな会話してねえよ。山谷町の友達がキャンプ地周辺で怪現象を目撃して面白そうだなーで終わってただろ。
「え!いいじゃん。私も行きたい。というかクラスみんなで行こうよ!」
みどりは西田の言葉を受けてすぐさまクラスにも響きそうな大きな声で賛同の意を示した。
「はい?」
クラスみんなで行く?
◆◆◆
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