第121話 ユートの実力
ローレリアの東門を出ると、国王陛下と王妃様の側にいたレッケさんが話しかけてきた。
「ユートと旅をするのは久しぶりだな」
「そうですね。クーデターの時以来です」
「まさか
「神剣とみんなの協力があったからですよ」
「そうだとしても、それはお前の力でもある。ユートがいればムーンガーデン王国も安泰だな」
「これから何かが起きるみたいなフラグを立てないで下さいよ」
ただでさえトラブルに巻き込まれて、みんなから冷たい目で見られているんだから。
「まあ何もなければそれに越したことはないがな。しかし最近西方の街が一つ、突如滅ぼされたと聞くからな」
「西方の街が?」
「ああ。行商人の話では朝は何ともなかった街が、夕方には滅んでいたそうだ。そして不気味なことに、滅んだ街には住人の死体以外何もなく、誰にやられたかもわからないとのことだ」
その話が本当なら半日と立たずに滅ぼされたということか。しかも痕跡も残さずにそんなこと可能なのか?
「だがもしその正体不明の奴らが来るなら、帝国を越えてこなければならないからな。我が国は安全だと思うが」
ムーンガーデン王国の西には帝国がある。この世界でトップクラスの軍事力を持つ帝国がやられるとは思えないけど、少し気になる話だな。
「それより
「え、ええ」
「俺や兵士達は国王陛下と王妃様、それとメイド達の護衛をするから、前線で魔物を倒す役目は任せてもいいか?」
「わかりました」
初めて平原に来た時もウルフブラッドに襲われた。おそらく今回も魔物が現れると考えた方がいいだろう。
「魔物は私が倒すわ」
背後にいたフィーナが俺達の話を聞いていたのか、会話に参加してきた。
「それならフィーナが弓矢で遠距離から攻撃をして、打ち漏らしたのを俺が片付けるでいいかな? それとヨーゼフさんはフィーナの護衛をお願いします」
「わかったわ」
「承知しました」
この平原程度の魔物なら、ノアの力がなくても大丈夫だろう。それにメイド達はノアが喋れることも魔法が使えることも知らないから、戦わせるわけにはいかない。
「ワン」
そして平原に入ってから三十分程経つと、ノアが軽く吠えた。
周囲を探知して、魔物が迫って来るのを教えてくれる。
「フィーナ、レッケさん」
「わかってるわ」
ノアが探知しているとは言えないので、フィーナとレッケさんだけにわかるよう話しかける。
すると数分もしない内に、シルバーの体毛に血のような赤い眼をしているウルフブラッドの集団が現れた。
「魔物だ! 武器を構えろ!」
レッケさんの命令で兵士達は戦闘体勢に入った。
その動きは素早く、よく訓練されていることがわかる。
「ひぃっ! 魔物が!」
「か、数が多過ぎて、何匹いるかわからないわ」
しかし戦闘訓練をしていないメイド達に取っては、魔物は恐怖でしかなく、震え始める。しかもシルバーブラッドは少なくとも三十匹以上はいるからな。
「大丈夫です。安心して下さい。あなた達には指一本触れさせやしません」
俺はなるべく穏やかな声で、メイド達に話しかけた。
取り乱して動き回れるとそれこそ困る。
「ユート様⋯⋯」
だけど口でどれだけの言葉を述べたとしても、メイド達の恐怖を完全に無くすことは出来ないだろう。
ここは安心してもらうために、一気に蹴りをつけよう。
「
俺は自分自身とフィーナに、力とスピードを強化する付与魔法をかける。
「ありがとうユート」
「一気に片付けるぞ」
「任せて」
フィーナは弓を構え、矢を射る。
すると矢は一匹のシルバーブラッドの脳天を突き刺し、見事倒すことに成功した。
「どう? これが私の実力よ」
大したもんだ。シルバーブラッドまで、少なくとも五十メートル以上はあった。それなのに一発で仕留めるなんて。
そしてフィーナが二射目を放つと、再びシルバーブラッドの脳天を突き刺し、まぐれではないことが証明された。
これは俺も負けてはいられないな。
俺は背中に背負った神剣を抜き、シルバーブラッドに向かって突撃をかける。
「なんて速さだ!」
「あれは人が出せるスピードなのか!」
背後からレッケさんとヨーゼフさんが驚きの声を発する。
だが驚いたのは二人だけではなかった。
シルバーブラッド達も、まさかこんなに早く迫って来るとは考えていなかったのか、戦闘体勢が取れていない。
「チャンスだな」
俺は神剣を横になぎ払い、三匹のシルバーブラッドの身体を斬り裂く。すると仲間を殺られたことで、俺を明確に敵と捉えたのか、シルバーブラッドが一斉にかかってきた。
「そっちから来てくれるなんて。どうやら死にたいらしいな」
俺は向かって来るシルバーブラッドを斬り刻んでいく。すると一分もたたない内にシルバーブラッドは全て絶命し、この場に立っているのは俺だけとなった。
「ま、まさかここまで強いとは⋯⋯」
「さすがSランクの魔物を二匹倒した英雄ね」
国王陛下は驚愕した表情で、王妃は落ち着いた様子でユートが戦う姿を見ていた。初めてユートの強さを体感した二人に取っては、信じられない光景だったようだ。
「ふふん、この程度ならユートに取って大した相手ではないわ」
フィーナは胸を張って得意気な表情を浮かべる。
「フィーナ様、褒められているのはユートですよ」
「う、うるさいわね! わかってるわよ」
ヨーゼフの的確な指摘で、怒りを露にするフィーナであった。
俺はシルバーブラッドを倒した後、みんなの所に戻ると何故かフィーナの機嫌が悪かった。
せっかく無傷で魔物を倒したのに、何で機嫌が悪いんだ?
ともかく魔物を倒したことで、メイドさん達も安堵している。
これで少しは気楽に旅をすることが出来るかな?
こうして俺達は迫り来る魔物達を倒しながら平原を越えて、二日後にはエルフの里に到着することが出来た。
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