第120話 再度エルフの国へ

 ルルとラブラブパンケーキセットを食べた後、城に戻ると俺は国王陛下の部屋に呼ばれた。


 何の話だろう?

 まさか褒賞についてか?

 いや、昨日しばらく時間をくれと言っていたので、それはないだろう。

 正直、何のために呼ばれたのかわからない。


 目的地に到着すると、警護をしている兵士の案内で、部屋の中に通された。


「ユートよ。よく来てくれたな」

「いえ、それより何のご用でしょうか」

「実はエルフとの会談なんだが、我が国ではなくガーディアンフォレストでやることに決めようと思う」


 会談は国同士で行うから俺には関係ないよな?


「何故俺にそのことを⋯⋯」

「実はエルフの王からの手紙には、もし会談をガーディアンフォレストで行う場合は、ユートを連れてきてほしいと書いてあったのだ」

「俺をですか?」


 どういうことだ? 何故会談に俺が行く必要があるんだ? エルウッドさんの意図が読めない。


「それでどうだろう。ユートも一緒にエルフの国に同行してくれないか。既にエルフとの友好関係を築いているユートが来てくれるなら、私達も心強い」


 閉鎖的だったエルフの国に行くことは、国王陛下も不安だろう。

 特にやらなくてはならないこともないし、同行することは問題ない。


「いいですよ。俺で良ければ、一緒にエルフの国に行きます」

「今回は王妃も同行するからユートが来れば喜ぶよ」

「王妃様が? そうなるとリズは」

「もちろん置いていく。王族が誰もいないような事態はよくないからな。不安ではあるが⋯⋯」


 国王陛下の頭の中には、リスティヒにクーデターされた時のことが思い浮かんでいるのだろう。


「もし良ければマシロかノアのどちらかを置いて行きましょうか?」

「おお! それは助かる。白虎かフェンリルがいれば安心だ」


 どうやら国王陛下の憂いを少しは解決出来たようだ。

 二人は本当に頼りになるな。


「では出発の際には頼むぞ」

「わかりました」


 こうして俺は国王陛下の要請を受けて、ムーンガーデン王国とガーディアンフォレスト王国との会談に同行することになるのであった。

 そして一週間後。俺達はガーディアンフォレストに旅立つため、ローレリアの城門前にいた。


「お留守番なんて残念です」


 見送りに来てくれたリズはうつむき、悲しそうな表情をする。

 そんな顔をされると、何だかガーディアンフォレストに行きにくいなあ。


「ごめんなさいね。でも今回は私に行かせてほしいちょうだい。先方のたっての希望だし」

「わかっていますお母様。いいですよ、私はマシロちゃんと楽しくお留守番していますから」


 マシロとノアにどちらかリズの護衛をしてほしいとお願いしたら、真っ先にマシロが手を上げた。

 理由は旅に出ると疲れるため、それなら城でのんびり過ごした方がいいとのことだった。

 しかしマシロは旅に出ても抱っこされているか肩に乗っているため、ほとんど疲れてないはずだが。

 ともあれノアからは異論はなかったので、残るのはマシロに決定したというわけだ。

 ちなみに今回の旅の同行者は、俺、ノア、フィーナ、ヨーゼフさん、国王陛下、王妃様、レッケ騎士団長、五人の兵士と四人のメイド⋯⋯そしてどうしても着いていきたいと言ったルルとなっている。

 平原とはいえ、道は整備されていないため馬車は使えない。そのため国王陛下と王妃様も徒歩でガーディアンフォレストに向かうことになっている。


「それでは行こうか」

「あっ! ちょっと待って下さい」


 国王陛下の号令で進もうとした時、リズが待ったをかける。

 するとリズは俺の方へと向かってきた。


「女神セレスティア様は仰いました。しばしの別れとなるため、ユートからリズを抱きしめなさいと」

「えっ?」


 またセレスティア様のお告げ?

 本当にセレスティア様は抱きしめろって言ったのか? しかも俺から?


「ユート様、セレスティア様から御言葉ですよ。お願いします」


 リズは手を広げて俺が来るのを待っている。


「あらあら」

「ぐぬぬぬ! 何故私ではないのだ」


 王妃様は楽しそうに、国王陛下は憎しみの視線を俺に向けている。


「ユート。セレスティア様の御言葉ですよ。早くしなさい」

「わかってるよ」


 セレスティア様の言葉は絶対なマシロに促され、俺はリズの前に立つ。


「フィーナさんフィーナさん。今のリズさんの言葉ってどういう意味ですか? 電波入っちゃってるんですか?」

「ルル、あなたなかなか失礼なこと言うわね。リズは女神セレスティア様の言葉を聞くことが出来るのよ」

「えっ? 何ですかそれ。もし私がその能力を持ったらセレスティア様の言葉と偽って、やりたい放題しますけど」

「あなたにその能力がなくて良かったと、心底思ったわ」


 フィーナは呆れた顔でルルに視線を送る。


「そっか⋯⋯リズさんは特別なんだ⋯⋯」


 ルルは寂しそうな顔をして小声で呟くが、この時の様子を気づく者は誰もいなかった。


 ルルの気持ちはとてもわかるが、今はとにかくセレスティア様の言葉を実行しないと。

 俺はリズを軽く抱きしめる。すると甘い香りと柔らかい身体が俺の脳を麻痺させていく。


「ユート様。どうかお気をつけて」

「リズも」


 そして名残惜しいけど、俺はリズから離れる。


「それではエルフの国に出発するぞ!」


 国王陛下のじゃっかん怒気が入った言葉に従って、俺達は東へと足を向けるのであった。


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