第115話 王女の帰還
ローレリアへ向かう道中、俺はマシロと前を歩く女性陣を眺めていた。
「本当ですか? 私もリズさんのお部屋に行きたいです」
「いいですよ。王都に着いたら私の部屋でお話しましょ」
「それなら何か甘い物でも買うわね。人族のお店を回るのが楽しみだわ」
今日知り合ったばかりとは思えない程仲が良いな。
ルルは人の心に入り込むのが上手いのか、リズはともかくあのフィーナまで心を許しているように見える。
「いやはや。これが若さというやつか」
「何をじじ臭いことを言ってるのですか? ユートだって十分若いですよね」
「それはそうだけど」
俺は異世界転生をしているから見た目より人生経験が多い。中身は若いって訳じゃないんだけどね。
「フィーナ様がお友達と楽しそうに話しているのを初めて見ました」
俺達の後ろを歩いているヨーゼフさんが染々と語り始めた。
まあフィーナはそもそも友達がいないと言っていたからな。
「たぶんルルのコミュニケーション力が高いせいじゃないですかね」
フィーナやリズにたいして物怖じせず、人懐っこい笑顔を浮かべている。
本当に大したものだ。俺もそんなにコミュニケーション力が高い方ではないから、素直に尊敬してしまう。
そして俺達は、夕陽が辺りを紅く染めた頃にローレリアに到着した。
「まずはお父様に御報告ですね」
「では、みなさんで行きましょう」
俺達は城へと足を進める。
すると道行く人達が話しかけてきた。
「リズリット様、戻られたのですね!」
「しばらく見なかったから心配したぜ!」
「腹減ってるだろ! うちの串焼きを食べてきな! お仲間の分もあるぜ!」
「ありがとうございます!」
城へ向かう中で、次々と人が寄ってきて差し入れをくれる。
もう両手が塞がって持つことが出来ないぞ。
「凄い人気ですね」
右隣にいるルルが感嘆な声を上げた。
その気持ちはわかる。こんなに好かれるお姫様は他にいるのだろうか。
「これだけ民衆に支持されていたら王位を乗っ取るのも簡単ですね」
「怖いこというなよ」
「冗談ですよ」
本当に冗談だよな? リズは純粋だからルルが誘導して⋯⋯いやいやないな。ないと思いたい。
「同じ姫でも私とは全然違うわね。私なんて傾国の姫って呼ばれてたし」
そして左隣にいるフィーナは目の前の光景にうつむき、落ち込んでしまった。
「いや、確かに最初はそういう風に呼ばれていたけど、今は違うだろ? 里に拡がったフォラン病治すため、レーベンの実を手に入れた英雄じゃないか?」
「私が英雄?」
俺の言葉を聞いてフィーナは顔を上げる。
「そうだよ。それに大地の恵みっていうスキルを持っていることから、エルフの国を作った初代女王の再来って呼ばれているじゃないか」
俺の中ではだけど。
だが今の言葉はフィーナにとって効果は絶大だった。
「えへへ⋯⋯そうかな」
落ち込んでいたフィーナが途端に笑顔になった。
ちょっと褒められただけでチョロすぎる。
将来絶対に誰かに騙されるだろ。ちょっと一人では人間の街を歩かせることは出来ないな。
それにしても人の波が切れない。このままだと国王陛下の元に到着する頃には暗くなってしまうぞ。
ここは街の人達には申し訳ないけど、先に行かせてもらおう。
「リズ、城に到着するのが遅くなるからそろそろ行くぞ」
「あっ! ユート様」
俺はリズの手を引き、人波から救い出す。
だけどもしかしたらこのまま街の人達が追いかけてくるかもしれない。そうなったら走って逃げるしかないな。
しかし俺の予想に反して、街の人達が追いかけてくることはなかった。
むしろ生暖かい目で見守られている気がするけど、気のせいか?
まあ何にせよチャンスではあるから、このまま城に行かせてもらおう。
そして俺達は後ろから追いかけてくるフィーナ達と合流し、城へと歩き出す。
そしてすぐに玉座の間への向かった。
「お父様、お母様⋯⋯ただいま戻りました」
「おお! リズよ! よくぞ無事に戻った!」
玉座の間に入ると、国王陛下と王妃様がリズの元に駆け寄ってきた。
Sランクの魔獣、
「ユート様が、我が国の長年の憂いであった
「なんだと! それは真か!」
「さすがはユートくんね。私は信じていたわ」
「そしてユート様は交流がなかったエルフとの間に繋がりをもたらして下さいました」
「エルフ⋯⋯だと⋯⋯そんなバカな話があるか。エルフは人間のことを恨んでいる。そのため国から出ることをせず、交流を断っているのだ」
国王陛下はリズの言うことを信じていない。その気持ちはわからなくもないけど本当のことだ。
そのことを証明するためか、背後にいたフィーナが前に出る。
「お初にお目にかかります。私はガーディアンフォレスト王国の第一王女、フィーナ・フォン・ガーディアンフォレストと申します」
さすがに本物のエルフを見れば国王陛下も信じるだろう。
しかし国王陛下はフィーナを見ても反応がない。
まるで時が止まったかのように見える。
そして数秒経つと突如狼狽え始めた。
「お、王妃よ! エルフが⋯⋯エルフがいるぞ!」
「あなた騒がしいです。フィーナさんに失礼ですよ」
「はっ! そ、そうだな。まさか我が国でエルフの⋯⋯しかも王女に会えるとは夢にも思わなかった」
「夢ではありませんわ。そしてこちらが私のお目付け役のヨーゼフです」
「ヨーゼフです」
「エルフが二人も!
その言い方だと悪いことをしたみたいで嫌だな。
「人族の王よ。驚くのはまだ早いぞ」
えっ? 何だ? ヨーゼフさんは何をするつもりだ。
ヨーゼフさんが国王陛下に手紙のようなものを渡す。
あれはエルウッドさんからの親書か? そういえば中身は何が書いてあるのだろう。
「では、読ませてもらおう」
国王陛下は親書の中身に目を通す。
「な、なんだと!」
すると国王陛下は驚愕の声を上げ、驚きのあまりかその場に座り込んでしまうのであった。
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