第114話 公爵令嬢の意図
「まずは初めにやらなくてはならないことがあります」
ルルの雰囲気が変わった。先ほどまでお茶らけた感じだったが、突然背筋を伸ばし、佇まいを正す。
そして俺の方に向き合うと頭を下げた。
「ごめんなさい」
思ってもいなかった言葉に驚いてしまう。
「私がギアベル皇子のパーティーに誘ったことで、ユートさんがひどい目に遭い、帝国から追放されてしまって⋯⋯」
ギアベルか。
確かに俺はルルの推薦でギアベルのパーティーに入った。
「でもそれは俺の意志でギアベルのパーティーに入るって決めたことだから。結果的に勇者パーティーに入れたし、ルルが気に病むことじゃない」
「そう言ってくれると少しは救われます。でもユートさんの不名誉だけは何とかしないとと思って、おじ様⋯⋯皇帝陛下に追放を取り消してもらいました。私はそのことをユートさんに伝えるためにここまで来ました」
わざわざ他国まで来てくれたなんて。ルルは本当に責任を感じていることがわかるな。
「そして勇者パーティーの検証も行われています」
「勇者パーティーの検証?」
「はい。ギアベル皇子のパーティーが勇者パーティーになることが出来たのは、ユートさんのおかげではないかと」
隠れて支援していたのがバレたのか?
まあ自分で言うのもなんだけど、ギアベルのパーティーはAランクの魔物すら倒すのが怪しかったからな。
妥当な判断だと思う。
「とにかくこれでユートさんは帝国に戻ることが出来ます」
「そっか⋯⋯ありがとう」
「これは私の罪滅ぼしですから。むしろこのくらいのことしか出来なくて⋯⋯ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。確かにギアベルのパーティーは最悪だったけど、あれがあったから今、俺は信頼出来る仲間に会えた」
もしあのまま山にある家に住んでいたら、探知が出来るマシロは来なかったかもしれない。旅に出なければノアやリズ、フィーナには会えなかった。
そう考えると、ギアベルに帝国から追放されて本当に良かったと思える。
「良い出会いをしたということですか。私との出会いもそう思ってくれますか?」
「もちろんだ」
「ありがとうございます」
ルルとの出会いが、俺の旅の原点だからな。俺にとっては良き出会いの一つだ。
だけど一つだけ懸念事項がある。俺の追放解除について絶対にギアベルは良く思っていないはずだ。
「そういえばギアベルはどうなったのかな?」
「ギアベル皇子は謹慎中で、城から出ることは許されていないです。それとユートさんに対して嫌がらせをした場合は、皇子の地位の返上を皇帝陛下は約束してくれました」
「そんなことまでしてくれたの?」
「はい。さっきも言った通り、ユートさんがギアベル皇子のパーティーに入ることになったのは、私の責任ですから」
さすがに皇族でなくなるなら、これ以上ギアベルが俺に関わってくることはないかも。
それにしてもそんな約束まで取り付けてくれるなんて、ルルは意外にもやり手なのかもしれない。
ともかくこれで俺は安心して帝国に戻ることが出来るということか。
「それとユートさん。さっきから気になっていましたが、こちらにいる綺麗なお姉さま達はどなたですか?」
「ふふ⋯⋯綺麗だなんて正直な子ね」
「綺麗だなんてそんな⋯⋯」
フィーナもリズも容姿はとても優れているからな。でもルルも二人に負けていないくらい美少女に見える。
「私はフィーナ、見ての通りエルフよ」
「エルフさんですか。初めて見ましたが本当に綺麗ですね。感激です」
ルルはフィーナと握手をかわす。
人間嫌いのフィーナが簡単に握手をするなんて、初めて会った時と比べると信じられないな。もしかして綺麗って褒められたからか? もしそうだったらチョロすぎるだろ。
「私はリズリット・フォン・ムーンガーデンです」
「わわっ! 王国のお姫様ですね」
「私のことはリズでいいですよ。私はルルちゃんって呼んでもいいですか」
「もちろんです。よろしくお願いします」
ルルとリズも握手をかわした。
「それとあっちの無愛想なのが、ヨーゼフよ」
「ヨーゼフさんですか。よろしくお願いします」
ルルはペコリと頭を下げる。
「それとこっちがマシロとノアだ」
最後に二人を紹介すると、ルルの目が輝き出す。
「実は初めて見た時から気になっていました。とても可愛いですね!」
どうやらマシロとノアはルルにも好かれているようだ。この世界では若い女の子は子猫と子犬が大好きなのか? 少し羨ましいぞ。
「それに可愛いだけじゃなくて、何か普通の動物が持っていないオーラを感じますね」
「えっ?」
俺はルルの鋭い指摘に思わず驚きの声を上げてしまう。
「わかるのか?」
「小さい頃から動物とは相性がいいのかなんとなく」
何か特別な才能かスキルを持っているのか?
ここは異世界だから何があってもおかしくない。
「私にはわかります。この子⋯⋯テイマーの才能がありますね」
「わわっ! 猫さんが喋った!」
「いちいちうるさいですよ。テイマーは動物を手懐けたり、召喚することが出来ます。おそらくその影響で私が持つ高貴なオーラに気づいたのでしょう」
この猫は自分で高貴とか言っちゃってるよ。相変わらず自分大好きだな。
「ではこっちのワンちゃんも⋯⋯」
「僕は犬じゃなくてフェンリルです」
「ワンちゃんまで喋った! ここはパラダイスですか! それとも昨日道端に生えていたキノコが毒キノコで、幻覚を見てるの?」
ルルはその変に生えていたキノコを食べたのか! 公爵令嬢なのに意外と逞しいな。
「ともかくここで話をしていてもしょうがない。俺達は王都に行く予定だけどルルも来るだろ?」
「もちろんです」
こうして俺達は新たに公爵令嬢のルルを連れて、王都ローレリアへと向かうのであった。
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