第116話 友好
「あなた、親書には何が書かれていたの?」
王妃様が国王陛下の様子を心配し、問いかける。
今の驚き方からして、とんでもないことが書かれていたのは間違いないな。
エルウッドさんは親書に何を書いたんだ?
その疑問はすぐに国王陛下が口にしてくれた。
「エルフの王が私と会談したいと言ってきたのだ」
「それは本当ですか?」
「ああ⋯⋯場所は我が国でもエルフの国でもどちらでもよいと書いてある。今まで最低限の交流しかなかったのに信じられん」
エルフの国は人間に対する考えを変えてくれたのだろうか? もしそうだとしたら俺とリズを見て、そう判断してくれたってことだよな? それって凄く嬉しいな。
「父は国王陛下だけでなく、王妃様にもお会いしたいと言ってました」
「ふふ⋯⋯それはとても嬉しいですね。私もエルフの国に行ってみたいわ」
どうやらフィーナは最初から会談のことを知っていたようだ。
なるほど。フィーナが何故ムーンガーデン王国まで付いてきたのか、その理由がわかった。王女であるフィーナがここにいることで、ガーディアンフォレスト王国側はムーンガーデン王国に対して誠意を見せているのだ。
今まで人間の国に来ることがなかったエルフの、しかも王女が来たのだ。その効果は絶大だろう。
「会談については了解した。ただ我が国で行うか、ガーディアンフォレスト王国で行うか決めるのに少し時間がほしい。明日の午前は⋯⋯人と会う約束があるので、夕方にはお伝えする」
「承知しました」
「今日は部屋を用意するので、ゆっくりと休んでくれ」
「ありがとうございます。人族の街を堪能させて頂きますわ」
どうやらムーンガーデン王国とガーディアンフォレスト王国とのコンタクトは和やかに終わったようだ。そして国王陛下は今度は俺の方へと視線を向けてきた。
「ユートよ。これまでの働き、誠に見事である。すぐにでも褒賞を与えたい」
ガーディアンフォレスト王国もそうだが、俺はどれくらいの褒賞をもらうのだろうか。帝国の山奥に住んでいた時には考えられないな。
「だがあまりにも功績が多過ぎて、しばらく時間をくれないか」
「俺はいつでも大丈夫です」
「そう言ってもらえると助かる⋯⋯それとそこにいるのはもしやニューフィールド家の令嬢ではないか?」
国王陛下は俺達の背後にいるルルに視線を向けた。
二人は面識があるのか? 他国とはいえ、王族と貴族⋯⋯知り合いでもおかしくないということか。
「ご挨拶が遅くなってしまい申し訳ありません。お久しぶりです、国王陛下」
「やはりルルで間違いなかったか。二年程前に帝国で会った時より大きくなったな。見違えたぞ」
「少しは素敵なレディに近づけましたでしょうか」
「そうだな。もう子供扱いは出来ないな」
「ありがとうございます」
おお⋯⋯ルルが貴族っぽい。
今の姿だけなら公爵令嬢といっても信じられるぞ。
「それで、ルルは何故ムーンガーデン王国にいるのだ? 正直今、我が国と帝国の関係は良くない」
国王陛下の言うとおり、皇帝は関係ないとはいえ、帝国はムーンガーデン王国を乗っ取ろうとしていた。不用意に上級貴族がムーンガーデン王国に来ない方がいいと言っているのだろう。
「実は私はユートさんとはただならぬ関係でして。帝国から追いかけて来ました」
その言い方何だか嫌だなあ。さっきまでの公爵令嬢モードのルルはどこかに行ってしまったようだ。
「何! まさか婚約者なのか!」
「それはご想像にお任せします」
そう言ってルルはうつむきお腹を擦る。
いや、その言動だと子供が出来たから俺を追いかけてきたと思われない?
「やはりユートはすけこましであったか!」
「違います! ルルは帝国にいた時、盗賊から助けただけの関係です!」
ここは火種が大きくなる前に、すぐに弁明しておこう。それにしてもすけこましってひどくね? 国王陛下は俺のことをそんな風に思っていたのか。
「何! そうなのか? だが今腹部を⋯⋯」
「これは国王陛下の前で緊張してしまい、お腹が痛くなってきたので擦っただけですわ」
「そ、そうなのか?」
「はい。そうですわ」
笑顔で自分は騙すつもりはなかったとアピールする。
「わ、わかった。とりあえずフィーナ王女もルルもゆっくりしてくれ」
「「ありがとうございます」」
そして国王陛下は少し疲れた様子で、玉座の間を後にするのであった。
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