第106話 前もって予測することは大切だ

 エルウッドさんの部屋を出る前に、懸念していたことがあったので、俺はマシロとノアに一つお願い事をする。


「面倒くさいですが、あり得そうな話ですね」

「わかりました。ユートさんの頼みなら、僕は何だってしますよ」


 二人は了承してくれたので、俺とリズだけ部屋を出た。

 そして廊下で待つこと十五分。

 フィーナが笑顔で部屋から出てきた。

 だが、廊下で待っている俺達と目が合うとクールな表情に戻ってしまう。


「コホンッ! 待っててくれたの?」

「ああ。親子の対面は堪能出来たか?」

「うるさいわね。それより今日はお城に泊まるけどいい?」

「本当に? ちょうど俺も城に泊まりたいと思っていたんだ」

「そう? それならちょうど良かったわ。そういえばお父さんとお母さんが、マシロさんとノアさんのことが気にいったみたいで、まだ部屋の中にいるけどいいの?」

「血は争えないというわけか」

「何か言った?」

「いや、何も」


 こわっ! 殺気が凄くて一瞬身構えてしまったぞ。

 フィーナに動物ネタをするなら、命をかけるくらいの覚悟がないとダメだな。


「二人のご飯は国王様の部屋に運んであげてくれ」

「わかったわ。でもユート、私に何か隠しているでしょ? もう騙されないわよ」

「人を詐欺師みたいに言わないでくれよ」

「もう何度弄ばれたかわからないわ」

「その言い方も嫌だなあ」


 俺はジト目で見てくるフィーナに対して、考えていたことを話す。


「確かにあり得そうな話しね」

「杞憂で終わってくれれば一番いいけどな」

「そうね。でもとりあえず昼食にしましょうか。そろそろリズのお腹が限界でしょ?」

「そんな! 私を腹ペコ怪獣みたいに言わないで下さい!」


 いや、腹ペコ怪獣だろ。

 おそらく⋯⋯いや、間違いなくフィーナも俺と同じ考えだろう。


「そ、そうね。リズごめんなさい」

「私は他の人より、ほんの少しだけ多く食べるだけですから」


 五人前をほんの少しと言える所で、既に俺達とは違うということに気づいてほしい。


「とにかく私は⋯⋯グゥ~」


 そしてタイミング良く、リズのお腹が鳴ってしまった。どうやらフィーナの指摘は間違っていなかったようだ。


「急いでご飯を作るように頼んでくるわ」

「⋯⋯お願いします」


 リズはお腹が鳴ってしまったことが恥ずかしかったのか、うつむきながら昼食の催促をするのであった。


 そして昼食をとった後、俺達は国王様の部屋の隣にあるフィーナの部屋に集まっていた。


「わあ~これがフィーナさんの部屋ですか! とても可愛らしいです!」


 ベッドには動物のぬいぐるみがたくさん置いてあり、リズが嬉しそうに眺めている。


「ふ、ふん! 子供っぽいって言いたいんでしょ」

「そんなことないです。私の部屋にもたくさんのぬいぐるみがありますよ」

「そうなの?」

「今度私の部屋にも遊びに来て下さい」

「わかったわ。楽しみにしている」


 何だかガールズトークが始まってしまったな。話に入りづらい。

 だけどそれぞれの国の王女が仲良くすることは良いことだ。もしかしたら二人を介して、人族とエルフ族の仲が改善するかもしれないからな。

 だからここは会話には入らないでおこう。

 王女同士のガールズトークという尊いものを、特等席で眺めさせてもらいますか。

 俺は気配を消して二人の様子を見守ることにする。

 だが人生というものは思いどうりに行かないものだ。


「ワオォォォン!」


 突如犬の遠吠えのようなものが城の中に響き渡る。


「えっ! 何?」

「これはもしかして⋯⋯」

「近いな」


 声の大きさからして、少なくとも今俺達がいる部屋からそう遠くはないだろう。


「二人とも行くぞ」

「ええ」

「承知しました」


 しかし俺達は突然の遠吠えに対して、全く動じていなかった。何故ならこのことを予測していたからだ。

 そして俺達は遠吠えが発せられたと思われる、国王様の部屋に向かいドアを開ける。

 すると部屋の中には、もう二度と会いたくない奴がいた。

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