第107話 ハウアーの逆襲
「ハウアー⋯⋯あなたが何故この部屋にいるの」
部屋にはハウアーとベッドで横たわるエルウッドさんとトリーシャさん。そして二人に抱きしめられているノアとマシロの姿があった。
ん? 護衛の兵士達がいないな? どこにいったんだ?
俺は昼間に来た時にはいた、兵士二人がいないことに違和感を感じた。
フィーナが強い目線でハウアーを射抜き、睨み付ける。
普通ならエルウッド国王の弟であるハウアーがここにいても問題はない。
だがハウアーは国王になりたいのか、エルウッドさんにいなくなってほしいという発言をしていた。
そのため、フィーナが不快感を露にするのは当然である。
「もう一度言うわ。何故あなたがここにいるのかしら」
「弟が兄の見舞いに来ておかしなことなどあるまい」
「おかしいから指摘しているのよ」
フィーナはハウアーに対して一歩も引く気はない。
まあ付き合いがない俺から見ても、ハウアーがエルウッドさんを心配して見舞いに来るなんてあり得ないと思っているからな。
「それよりなんだその犬は。突然吠えてうるさくてかなわないぞ。これだから躾がなっていない犬は嫌いだ」
「あら? あなたの目は節穴かしら? ノアさんは優秀なボディーガードよ。怪しい人物がいたら吠えるのは当然だから」
「それは暗に私のことを言っているのか?」
「さあ? 思い至ることがあるのかしら」
二人の間に一触即発の空気が流れる。
そのような中、ノアがこちらにやって来て俺の肩に乗る。
すると小さな声でとんでもないことを囁いてきた。
「あのパンには毒が入っています。それと――」
毒⋯⋯だと?
ハウアーの手にはエルウッドさん達の夕食なのか、トレイのような物が持たれていた。そしてその上にはパンやスープ、サラダが乗っている。
やはりというか、ハウアーはフィーナの両親を殺害しようとしていたのか。まあ一発逆転を狙うにはそれしか方法がないと思っていたけど、本当に実行するとは。
念のために、マシロとノアをこの部屋に待機させておいて良かった。
それにしても今のノアの言葉がフィーナに聞こえてなくて助かった。もし聞こえていたら激昂してハウアーに襲いかかっていたかもしれない。
ハウアーを問い詰めるなら、大勢の前で言い逃れが出来ない状態にしてからだ。
そして俺の望んだ通り、ノアの遠吠えを聞いて兵士達が続々とこの場に集まり始めた。
「国王陛下! 御無事ですか!」
「今の遠吠えは何だ!」
「国王陛下と王妃様をお護りしろ!」
これでこの部屋には多くの証人が集まったことになる。
さあ、これからは俺達のターンだ。
「とりあえず遠吠えについては置いといて⋯⋯ハウアーさん、その手に持っているものは何ですか?」
俺はハウアーが持っているトレイを指差す。
「こ、これは部屋に行くついでにと、給仕からもらっただけだ」
今の言葉を聞いて兵士達がざわめき始める。
「ハウアー様は日頃から給仕など底辺の仕事だ。高貴な私がやることではないとか言ってなかったか?」
「そのような、人に使われる仕事しか出来ないなんて哀れだとも言っていたぞ」
本当にこいつはろくでもないな。どのような仕事でもやってくれる人がいるから世界が回るんだ。職種によって差別するなど許されることじゃない。
「きょ、今日は兄上の食事だから持っていっただけだ。特に他意はない」
声がどもり、明らかに動揺しているように見えるな。やはりノアの言っていることは間違っていないようだ。
「そういえばハウアー様。国王陛下との大事なお話はもう終わったのですか? 私達に席を外すよう言われてましたけど」
「大事な話だと? いや、まだ何も聞いていないが」
一人の兵士の言葉にエルウッドさんが答える。
なるほど。護衛の兵士がいなかったのはそういうことか。毒入りパンを食べた後、すぐに治療出来ないように兵士を遠ざけたのだろう。
「こ、これからするつもりだったのだ。それより犬の遠吠えごときでわざわざ集まるな。とっとと散れ!」
ハウアーの言葉で兵士達は元いた場所へと戻っていく。
だがそれを俺が許さない。
「待って下さい。兵士の方達がここにいると都合が悪いことでもあるんですか?」
「そのようなことはない」
「そうですか⋯⋯ではその毒入りパンを国王陛下に食べさせようとした訳じゃないんですね?」
「ななな、なんだと!」
確信を持った言葉で伝えると、ハウアーは明らかに狼狽え始める。
「ハウアー⋯⋯今の話は本当なのか!」
エルウッドさんが激昂し、ハウアーを問い詰める。
無理もない。もしノアとマシロがいなかったら殺されていたのだから。
「ち、違う! 言いがかりだ! 兄上は人族の言うことを聞くつもりなか!」
やはりというか、ハウアーは素直に自分の罪を認めることはしない。
それならばと俺は、言い逃れが出来ない言葉をハウアーに突き付けるのであった。
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