第105話 快気

「お父さん! お母さん!」


 フィーナが国王様と王妃様の元に駆け寄り手を握る。


「おお⋯⋯フィーナよ。しばらく見なかったから心配したぞ」

「でも助かったわ。まさかレーベンの実を手に入れるなんて」


 二人はフィーナに向かって優しい笑顔を向けている。

 まだ会ったばかりだけど、二人がフィーナを大切にしていることがすぐにわかった。

 そしてこの姿に感動したリズが、目に涙を浮かべている。


「良かったです⋯⋯本当に良かったです⋯⋯」


 リズは本当に良い子だな。

 他人のために泣ける人なんて、この世界でもそう多くない。


「お父さんお母さん身体は大丈夫? 辛くない?」

「少しダルいが大丈夫だ。身体の具合が徐々に良くなって行くのがわかるよ」

「まだ歩くのは難しいけど、治療薬を飲む前と比べたらすごく調子がいいわ」


 二人から身体の状態についての話が聞けて安心する。これでフォラン病については大丈夫と考えてもいいかな。


「それにしてもレーベンの実を取って来たと言うことは、漆黒の牙シュヴァルツファングを倒したということか」

「そうよ」

「長い年月平原に君臨していた漆黒の牙シュヴァルツファングを倒すとは⋯⋯もしや後ろにいる人族が関係しているのか?」

「え、ええ⋯⋯」


 フィーナが少し言い淀む。


「お父さん、ユートとリズは人族だけどとても良い人達よ。私も何度救われたかわからないわ。だからその⋯⋯」


 もしかしてフィーナは俺達のことを庇っているのか? エルフにとって人族は憎むべき存在と言ってもいいくらいだ。

 現に俺達は、エルフ達に心無い言葉を浴びせられたりもした。

 エルフの王であるフィーナのお父さんは、俺達に嫌悪感を持っていてもおかしくない。

 ここを出ていけと、罵倒される可能性もある。


「ユートとリズと言うのか、ベッドからすまないが私はエルウッドで、横にいるのは妻のトリーシャだ。娘を⋯⋯エルフの里を助けてくれてありがとう」


 エルウッドさんとトリーシャさんは俺達に頭を下げてきた。

 人族の俺達に対して思うところはあるだろう。だけどそれでも恩人に対してはちゃんと頭を下げる。立派な人だな。


「もしかしてユートさんが背負っている物って神剣かしら」

「そうよ。ユートが神剣を抜いて漆黒の牙シュヴァルツファングを倒したの」


 フィーナが自分のことのように胸を張り、嬉しそうな顔をしている。


「いえ、俺だけの力じゃないです。みんながいたから漆黒の牙シュヴァルツファングに勝つことが出来ました」

「そうか。君は謙虚な男だな」

「事実ですから」

「神剣を持っているということは、長老達にも認められているということか。ならば私からは感謝の言葉しか言うことはないよ」

「フィーナも心を許しているしね」

「べ、別に私はユートに心を許しているつもりはないわ」


 トリーシャさんの指摘が恥ずかしかったのか、ツンデレ言葉を発する。


「あら? 私は一言もユートさんとは言ってないわよ。やっぱりフィーナはユートさんに心を許しているのね」

「ユートのことなんて好きじゃないから! 勘違いしないでよね!」

「はいはい。そういうことにしておきますね」


 何だかフィーナの扱いが慣れているように見えるな。さすがは母親といった所か。


「ユートさん⋯⋯いえ、ユートくん。そしてリズちゃん。これからもフィーナのことをよろしくお願いしますね」


 トリーシャさんが真剣な表情で頭を下げてくる。これは王妃ではなく、母親としての願いということかな。

 だけどどちらにせよ、俺達の言葉は決まっている。


「フィーナは大事な仲間です」

「フィーナさんは私の大切な友達です」

「「こちらこそよろしくお願いします」」


 最後はリズと言葉が被ったな。考えることは同じということか。


「二人共ありがとう」

「お母さん恥ずかしいわ」


 フィーナの顔が真っ赤だな。けどどこか嬉しそうにも見える。


「それともう一つ気になったことがあるけど聞いていい? フィーナは何でいつものようにパパ、ママって呼んでくれないの?」

「なっ!」

「パパって呼ばないとお父さんは泣いちゃうわよ」

「いや、泣きはしないがパパって呼んでくれた方が嬉しいな」

「マ、ママやめて! 恥ずかしいよう」


 フィーナの顔がさらに真っ赤になってしまった。トリーシャさんに指摘されたことが、相当恥ずかしいということがわかる。

 だけど普段見ないフィーナの少し子供っぽい姿が、何だか微笑ましいな。


「ユートもニヤニヤしない! 私、パパとママと話をしなくちゃいけないからもう出てって!」


 フィーナが怒った顔でジロリと睨んできた。

 ここは言う通りにしないと、また短剣を投げて来そうだ。

 まあフィーナの恥ずかしい気持ちもわかるので、ここは素直に従い、俺は部屋を出ていくのであった。


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