第102話 主人公は常に冤罪に晒されるもの

「ん⋯⋯」


 朝日の眩しい光が窓から射し込み、俺は目が覚める。

 身体がバキバキいってるな。無理もない、結局フィーナが手を離してくれず、椅子に座りながら一晩過ごすことになったのだ。

 そして眠り姫はまだ起きていない。

 少なくとも十二時間以上寝ている。もしかしたらこのまま起きない、なんてことはないよな。

 フェリもそこまで心配している感じじゃなかったし。

 それとも童話の眠り姫のように、王子のキスでも待っているのだろうか。

 フィーナへと視線を向ける。

 綺麗な顔立ちをしているな。百人いたら百人共綺麗だと言うのは間違いないだろう。

 そのような女の子が今、男の前で無防備な顔を晒している。

 もし俺が悪い奴だったら大変なことになっていたぞ。

 俺の紳士っぷりに感謝して欲しいものだ。

 それにしてもフィーナはいつ起きるのだろうか。リズが来たらフェリを呼んで見てもらった方がいいかもしれない。

 さすがにちょっと心配になってきた。


 俺はフィーナの顔を眺めながら、リズが来るのを待っていると右手が強く握られた。


「ん? 起きたか?」


 だがフィーナの目は閉じられたままだった。

 しかしこの後、突然フィーナが起き上がると、俺の胸に飛び込んできた。

 手は背中に回されて、おもいっきり抱きしめられる。


「もふもふの大きな猫さんだあ。絶対に離さないから」


 えっ?


 俺はフィーナの言葉に呆然としてしまう。

 もしかして寝惚けているのか?

 猫の夢を見ているなんてフィーナらしいな。

 でもこの状態どうしよう。

 俺は可愛い女の子に抱きしめられて役得ではあるが、もし誰かに見られでもしたら誤解を招きそうな気がする。

 どうしたものかと考えていたら、フィーナの動きが止まった。

 寝惚けていただけだから、また寝たのだろうか。

 いや、そんなことはない。

 俺の位置から人族より少し長い耳が見えるが、真っ赤になっていた。

 おそらく抱きついた後に夢から覚めて、どうすればいいのかわからなくなってしまったといった所か。

 とりあえずフィーナがどう出るか様子をみよう。


 しかし一分、二分と時間が経つが、フィーナは微動だにせず、俺を抱きしめたままだった。

 これはもう俺から指摘した方が良さそうだな。


「俺はもふもふの大きな猫さんじゃないぞ」


 先程フィーナが言った言葉を口にする。

 するとフィーナの身体がびくっと震えた。

 やはり起きていたか。これ以上隠し切れないと諦めたのか、フィーナがゆっくりと俺から離れる。

 その時のフィーナは今まで見たことがない程、真っ赤な顔をしていた。


「こここ、これは違うのよ。夢を見ていてそれで⋯⋯」

「もふもふの猫と戯れている夢を見ていたということか」

「わ、悪い! 夢は自分では選べないからしょうがないじゃない!」


 だけど夢は願望の表れって言うし、フィーナが望んでいることじゃないのか?

 だけどそれを指摘すれば怒られそうだからやめておこう。


「それよりいつから私が起きているって気づいていたの?」

「う~ん⋯⋯抱きつかれてから割りとすぐに気づいたかな」

「私が困惑しているのを見て楽しんでいたのね! 最低!」


 フィーナは怒ったのか、枕や側にあるものを手当たり次第投げてきた。


「お、おい。やめてくれ」


 だけど投げてくるものは、取るに足らないものと思って受けていたが、突如光る物が迫ってきたので、無意識に避ける。

 そして後ろを振り向き、壁に刺さっている物を確認したら、それは短剣だった。


「仕留めそこねたわ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! さすがに短剣はやり過ぎじゃないか!」

「ユートには私が猫化している所も見られているし、このまま死んでもらった方が⋯⋯」


 物凄く物騒なことを言い始めたぞ。

 フィーナの目のハイライトが消えていて、メンヘラみたいになっていないか?


「このままだと殺られる」


 俺は急ぎ寝室から脱出しようとするが、突如ドアが開いた。


「薬が出来たのじゃ!」


 現れたのはフェリだ。

 た、助かった! 俺は開いたドアから外に出ようとする。

 だがフェリは何を思ったのか寝室に入らず、ドアを閉めた。


「えっ? ちょっと! 何で閉めちゃうの!」


 俺はドア越しに語りかける。


「いや、何だか修羅場じゃったから。大方寝ているフィーナに、ユートが如何わしいことをしたのじゃろ。やらしい奴じゃのう」

「まさかユート! そんなことまで⋯⋯だから私に抱きしめられた時も指摘せず、その感触を堪能していたのね」

「違うから! 冤罪だあ!」


 フェリの登場で俺はさらに追い詰められてしまった。だがこの後現れたリズが、何故俺が寝室にいたのかを説明してくれたお陰で、何とか誤解が解けるのであった。

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