第101話 予想外の出来事

「やったな」

「こんなに実がたくさん⋯⋯これでエルフの方達をフォラン病から治すことが出来ますね」


 俺とリズは喜びの言葉を口にする。だけど当の本人であるフィーナは呆然としていた。


「これ⋯⋯本当に私が?」

「そうだよ。光が広がって凄かったぞ」

「そう⋯⋯よかった⋯⋯」


 フィーナは弱々しい声で応えると、そのまま目を閉じて前に倒れる。


「フィーナ!」


 俺はフィーナが地面に身体を打つ前に、何とか抱き止めることに成功する。


「フィーナ、フィーナ大丈夫か!」


 俺は何度も名前を呼ぶが、フィーナは目を閉じたままだ。

 これは大地の恵みのスキルを使ったせいなのか?

 俺は状況がわかっていそうなフェリに視線を向ける。


「やはりこうなったか」

「どういうことですか?」


 フェリはこうなることがわかっていたのか。それなら早く言って欲しかったぞ。


「初代女王も意識して大地の恵みを使うと、疲労で倒れることがあった」

「それではフェリさんは意識を失っているだけということでしょうか? すぐに目が覚めると考えてよろしいですね?」

「おそらくしばらくは目が覚めないと思うが、身体には問題ないはずじゃ」

「それなら良かったです」

 

 俺とリズは胸を撫で下ろす。

 大地の恵みは、身体の消耗が激しいという訳か。

 寝ていれば目が覚めるとわかっていても、あまり頻繁に使わせたくないな。


「とりあえずユートよ。フィーナをベッドに運んでやったらどうじゃ? そして最長老はすぐに薬の作製に取りかかるのじゃ」

「承知しました」

「我も手伝ってやろう」


 フェリと最長老様はレーベンの実を取って、どこかへと行ってしまった。

 あの二人ならきっとフォラン病を治療する薬を作ってくれるだろう。

 それより俺は、今回の殊勲賞であるフェリをベッドで寝かせてあげないとな。


 フィーナをお姫様抱っこで抱きかかえ、家の中へと向かう。


「ユート様、私も行きます」


 そしてリズも連れて家の中に入り、フィーナをベッドの上に降ろした。

 確かフォラン病の薬を作るのに一日半かかるって言ってたな。フィーナもその時間までには、さすがに起きているだろう。


 フィーナも男の俺に寝顔を見られるのは嫌だろうから、後はリズに任せよう。


「それじゃあリズ⋯⋯後は⋯⋯ん?」


 俺はこの場から立ち去ろうとしたら、突然フィーナに掌を掴まれた。


「フィーナ? 起きてるのか?」


 返事はない。どうやら寝ているようだ。

 無意識に掴んでしまったという訳か。

 俺はフィーナの手を剥がそうとするが、なかなか力が強くて離れない。


「ユート様、そんなに強くしたらフィーナさんが起きてしまいますよ。手が緩んだ時に抜け出したらどうでしょうか?」

「そ、そうだな」


 リズが椅子を持ってきてくれたので、そこに座る。

 そんなに長い時間いる訳じゃないだろう。

 俺はそんな甘い考えを持っていたが、現実は二時間経っても手の力は緩まず、そのままだった。


「ユート様、夕食の準備が出来ましたが⋯⋯」


 リズが申し訳なさそうに寝室に現れた。


「申し訳ございません。私が余計なことを言ったばかりに⋯⋯」

「いや、リズは悪くないよ。俺も無理矢理手を離して、万が一フィーナが起きたら申し訳ないって思ってたから」


 それにまさかここまで手を離さないなんて、誰も思わないだろう。


「わかりました。私が責任を取らせていただきます」

「えっ? 責任?」


 いったい何をするつもりなんだ?

 リズは一度寝室を出るとすぐに戻って来た。だがその手には夕食だと思われるシチューがトレーに乗っていた。

 椅子を持ってきて俺の隣に座り、シチューをスプーンですくう。


「ユート様、お召し上がり下さい⋯⋯あ~ん」


 そしてシチューが入ったスプーンを俺の口の前に持ってきた。


「いや、いいよそんなことしなくて」


 利き腕はフィーナに封じられているけど、左手でも食べられる。


「はっ! 私としたことが申し訳ありません。このままでは食べることが出来ませんよね」


 どうやらリズは自分の世界に入っているのか、俺の話を聞いてくれない。


「ふ~ふ~⋯⋯これで火傷しないで食べることが出来ます。ではもう一度⋯⋯あ~ん」


 これは誰も見てないとはいえ、少し恥ずかしいぞ。


「ユート様、あ~ん⋯⋯」


 だがリズはやめてくれない。

 ここは覚悟を決めて食べるしかないのか。

 俺はゆっくりと口を開くと、シチューの入ったスプーンが口の中に入っていく。


「どうですか? 美味しいですか?」

「うん」


 正直恥ずかしくて味がよくわからない。


「良かったです。ではまた⋯⋯あ~ん」

「あ~ん」


 そしてこの後もシチューを食べさせてもらうと、リズが満面の笑みを浮かべていることに気づいた。


「どうしたの? 何だか楽しそうだね」

「ふふ⋯⋯とっても楽しいですよ。ユート様のお役に立てていることが嬉しくて」

「そうなの?」

「そうです。それに雛鳥のように口を開けて食べているユート様が可愛らしくて。これからも定期的にあ~んをしてもいいですか?」

「え~と⋯⋯それはちょっと恥ずかしいな」

「そうですか。それは残念です」


 リズから笑顔が消え、本当に残念そうにしていた。

 そんなに俺に食べさせたいのか?

 リズから太陽のような眩しい笑顔がなくなってしまうと、何だかとても悪いことをしてしまった気分になる。


「わ、わかった。誰も見てない時、たまにだったらいいよ」

「本当ですか! ではそれでお願いします!」


 俺が了承すると、悲しそうな顔をしていたリズが一瞬で笑顔になった。

 もしかして俺がいいって言うのを待ってたのか?

 何だか少し嵌められたように感じるけど、リズが笑顔になるならそれでもいいかと思ってしまう俺であった。




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