第100話 大地の恵み
「大地の恵みは祈りの力と聞いておる。本人が意図していなくても、その時の状態によって影響があるとのことじゃ」
「それって気分が沈んでいたり、嫌なことがあると効果がないってこと?」
「その通りじゃ。あやつに恋人が出来た時など、周りに花が咲き乱れておったのう。懐かしい思い出じゃ」
そうなると以前聞いた森に元気がないってやつは、フィーナの影響なのか?
両親がフォラン病にかかったり、傾国の姫と蔑まされていたから、落ち込んでいてもおかしくない。
森が大地の恵みの恩恵を受けることが出来なかったのだろう。
本当にジグベルトは余計なことをしてくれたな。
「わかったわ。祈ればいいのね」
フィーナは目を閉じて両手を組む。そして地面に膝をつけて、いわゆる祈りのポーズをする。
美少女がすると絵になるな。天から光が降りて来そうだ。
俺達はただその美しき光景を見守る。
フィーナが祈り初めてから十五分程経った。
だが未だにレーベンの木には変化はない。
これってどのくらい祈ればいいんだ?
まさか一日とか長い時間かかるんじゃないだろうな。
フェリに聞いてみたい所だけど、フィーナが真剣に祈っているのに邪魔をする訳にはいかない。とにかく今は見守るとしよう。
そしてさらに十五分が経った。しかし先程と同様にレーベンの木に変化はない。
だけど頑張っているフィーナを見守ると決めたんだ。
ただ待つことくらい出来なくてどうする。
「ちょ、ちょっと待って⋯⋯少し休憩してもいい?」
フィーナは祈りを止めて、目を開ける。
三十分近く祈りを捧げていたため、疲れてしまったようだ。
まあ何かの信者じゃない限り、長時間祈りを捧げることなどしないから、その気持ちはわかる。
「何か大地の恵みを上手く使う方法って知らないの?」
「我も詳しいことはわからん。じゃが初代女王は楽しいことを考えて祈ると話しておった。確か友人や恋人のことを考えて祈ると言っていたような」
「そ、そうなの? でも私、友達や恋人との思い出なんてないわよ⋯⋯⋯⋯⋯⋯どっちもいないから」
人のことは言えないが、フィーナの言葉に涙が出てきた。しかも寂しそうな顔をしているし。
だが過去のフィーナには友人はいないが、今は俺達がいるじゃないか。
俺はリズと視線を合わせる。するとリズは頷いたので、俺達はフィーナの肩に手を置いた。
「私はフィーナさんのお友達ですよ。これから楽しい思い出をいっぱいいっぱい作っていきましょうね」
「フォラン病の人達を治せるのはフィーナだけだ。俺達はフィーナなら出来るって信じてるぞ」
「二人とも⋯⋯」
フィーナは目を潤ませていた。
そしてこの時、足元に気配を感じた。
「フィーナは私の世話係三号ですから、この程度のことを失敗したら困ります」
「僕もフィーナさんのこと応援してます。頑張って下さい」
マシロとノアもフィーナを激励する。
俺達にはレーベンの木に、実を宿らせることは出来ない。だからせめてフィーナが力を発揮しやすいように応援する。
「みんな⋯⋯ありがとう。私、絶対に成功させてみせるわ」
フィーナは再び目を閉じて祈り始めた。
その姿は先程と同じ様に見える。しかし大地の恵みについて何も知らない俺でも何かが違うことがわかった。
心地よい空間がこの場を支配して、まるで全ての生物に祝福を与えているように感じた。
そしてフィーナの身体から放射状に光が広がると、周囲に異変が起きる。
先程まで葉しかなかったレーベンの木に、いくつもの実が生り始めたのだ。
「フィーナさん⋯⋯すごいです」
リズが⋯⋯いや、ここにいる全員が目の前の奇跡から目を話せないでいた。
大地の恵みとは凄い力だな。まるで女神様の所業だと言っても信じてしまいそうだ。
そしてフィーナは祈りを解除すると、レーベンの木には数え切れない程の実が生るのであった。
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