第94話 |漆黒の牙《シュヴァルツファング》討伐戦後編

「ゴホッゴホッ! ゴホッゴホッ!!」


 長く漆黒の牙シュヴァルツファングとの攻防を繰り広げたせいか、俺は激しく咳き込んでしまう。

 そして終には、その場に膝をついてしまった。


「ユート!」

「ユートさん!」

 

 マシロとノアの悲痛の叫びが聞こえてくる。

 漆黒のシュヴァルツファングはその隙を見逃さなかった。

 魔素で肺をやられた俺を仕留めようと、猛然と迫ってくる。

 おそらく漆黒の牙シュヴァルツファングの真の狙いは、魔素で俺の身体が蝕まれていくのを待っていたのだろう。

 そして激しく咳き込み、地面に膝をついた俺を見て、殺せると判断したのだ。


 漆黒の牙シュヴァルツファングは俺の頭を目掛けて右の爪を振り下ろす。

 この攻撃をまともに食らえば、勝敗は決したようなものだ。

 弱っている獲物など余裕で狩れると思っているのだろう。

  しかしそうはさせない。

 俺は向かってきた爪に対してカウンターで、神剣を下段から振り上げる。


「ぐあっ!」


 俺は右の爪を避けきれず、左肩を切り裂かれてしまう。

 だが左肩を代償に、漆黒の牙シュヴァルツファングの左前足と黒の法衣を斬り払い、ダメージを与えることに成功した。

 黒の法衣は神剣で斬られたことで、完全に消滅した。

 これで神剣以外の攻撃も通るようになったはずだ。

 しかし黒の法衣は、また復活することが出来るかもしれない。

 だからこのチャンスを逃す訳にはいかないのだ。

 俺は右手に持った神剣で追い討ちをかけるため、斬り払う。


「うっ!」


 だが切り裂かれた左肩の痛みが邪魔して、僅かに動作が遅れる。

 漆黒の牙シュヴァルツファングがその隙を見逃すはずがなかった。

 漆黒の牙シュヴァルツファングは神剣から逃れるため、後方へとジャンプする。

 このままでは代償を払ってまで作った隙が、無駄になってしまう。

 だがの攻撃は終わっていない。


氷拘束魔法アイスバインド


 突然背後から声が聞こえると地面が凍りつき、後方へとジャンプした漆黒の牙シュヴァルツファングの動きを止める。

 これは黒の法衣が消滅したから出来たことだ。


稲妻魔法ライトニングボルト


 そして再び背後から声が聞こえると、漆黒の牙シュヴァルツファングに向かって天から稲妻が落ちる。


「ガアァァッ!」


 稲妻は漆黒の牙シュヴァルツファングに直撃すると、その身を焦がした。だがまだ奴の目はまだ生きている。

 しかしこちらの追撃は終わってはいない。


 後方から風を切りながら、凄まじいスピードで光輝く矢が飛んできた。

 矢は漆黒の牙シュヴァルツファングの額を撃ち抜くと、そのまま後ろへ吹き飛ばした。


 作戦通りだな。

 黒の法衣を破った瞬間にノアには漆黒の牙シュヴァルツファングの動きを止めることを、マシロとフィーナには追撃で攻撃することをお願いしていた。

 結果、漆黒の牙シュヴァルツファングは吹き飛び、地面にのたうち回っている。

 だがさすがと言うべきか。漆黒の牙シュヴァルツファングは予想外の出来事がいくつも起きたのに、直ぐに持ち直し、距離を取ろうとしていた。


「だけど遅かったな」


 俺も皆が攻撃をしてくれていた時、ただ何もせず見ていた訳じゃない。

 フィーナが放った神樹の矢で漆黒の牙シュヴァルツファングが吹き飛んだ後、とどめを刺すために距離を詰めていたのだ。


「これで終わりだ!」


 俺は漆黒の牙シュヴァルツファングの頭を狙って、神剣を上段から振り下ろす。

 すると漆黒の牙シュヴァルツファングは神剣をまともに食らい、断末魔を上げる暇もなく、真っ二つに斬り裂くことに成功するのであった。

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