第93話 |漆黒の牙《シュヴァルツファング》討伐戦中編

「何だと!」


 まさか遠距離から攻撃をしてくるとは。

 だけどもしかしたらと想定していたので、俺は向かってきた刃に対して身を捻る。

 すると刃をかわすことに成功した。


 危なかった。遠距離攻撃があるかもと考えていなかったら、今の攻撃を食らっていたかもしれない。

 これがスキル欄にあった漆黒の爪というやつなのか。

 俺はチラリと地面に視線を向ける。


 刃が通った場所は土がえぐれ、まともに食らったらただじゃすまないことを物語っていた。

 この攻撃を絶対に食らう訳にはいかない。

 だが今の攻撃なら油断さえしなければかわすことは出来そうだ。


 漆黒の牙シュヴァルツファングは今度は地上から漆黒の爪を連続で放ってきた。


「ゴホッゴホッ⋯⋯そんな攻撃当たらないぞ」


 俺は咳き込みながら、漆黒の爪をかわしていく。後は距離を詰めることが出来ればいいんだが。

 しかし漆黒の牙シュヴァルツファングは神剣を警戒しているからそれは容易ではない。

 今は隙が出来るのを待つしかないのか。

 漆黒の牙シュヴァルツファングは再び高く飛び上がる。

 また空中から漆黒の爪を放つつもりか? 何度打っても無駄だということをわからせてやる。そうすれば痺れを切らして、こっちに突撃してくるかもしれない。

 しかし漆黒の牙シュヴァルツファングの狙いは違った。


「ワオォォォォッン!!」


 飛び上がっている最中に咆哮を始める。


「ゴホッゴホッ⋯⋯だからそれは俺には効かないと言っている」


 俺にとってはただうるさいだけだ。

 ん? 俺にとっては? まさか!


 漆黒の牙シュヴァルツファングの視線はこちらには向いていなかった。視線の先にいるのはマシロとノアだ。


 俺は急ぎを二人の元へと向かう。

 すると漆黒の牙シュヴァルツファングはマシロとノアに向かって漆黒の爪を放った。


「くっ! 咆哮で動けなくなった二人を狙うとは!」


 やはりそれなりに知恵があるということか。

 漆黒の爪が二人に猛然と迫る。


「くっ! 足が⋯⋯」

「動け動け動いてよ!」


 ダメだ。二人は咆哮によって動けないでいる。

 こうなったらやるしかない。

 俺は迫り来る漆黒の爪を神剣で斬りつける。

 すると漆黒の爪は跡形もなく消滅した。


「ご、ご苦労でした。さすがは私の世話係です」

「ありがとうございます。助かりました」


 二人が無事で良かった。

 どうにか漆黒の爪を斬り払うことが出来たか。

 やはりディバインブレードは神剣と呼ばれるだけあって、相当優秀な剣のようだ。

 地面を切り裂く漆黒の爪を、まさかあっさり斬り払えるとは思っていなかった。

 だけどこれで漆黒の爪を完全に防ぐことが出来る。


「ゴホッゴホッ⋯⋯二人共大丈夫か」

「ええ⋯⋯ようやく足が動くようになりました」

「咆哮を放つ前に魔法で牽制してみます」


 さて、これから俺達を仕留めるために何をしてくるつもりだ。知恵があるなら、漆黒の爪を無闇に放ってくることはないとは思うけど。


 漆黒の牙シュヴァルツファングはこちらに視線を送り、変わらず殺気を放っている。

 すると地面を力強く前足で蹴り、こちらに突進してきた。


「速い!」


 さっきまでのスピードと比べると段違いだ!

 まさかこれがスキル欄にあった疾風迅雷なのか!

 目にも止まらぬスピードとはまさにこのことで、風を切り裂き、雷のように一瞬で目的地に到達する。疾風迅雷の名前に相応しい速さだった。


 こちらに接近してきた漆黒の牙シュヴァルツファングは黒い爪を振りかざしてきた。

 俺はその爪を何とか神剣で受け止める。

 二撃目が来る前に斬り払うが、そこには誰もいなかった。

 そして再び漆黒の牙シュヴァルツファングは猛スピードでこちらに迫ってくる。

 すると鋭い爪で再び攻撃してきた。

 だがその爪はギリギリ俺の目には見えているため、神剣で防ぐ。

 俺は反撃しようとするが、既に漆黒の牙シュヴァルツファングは目の前にはいなかった。


 まさかリスクを回避するために、一撃離脱の戦法をとっているのか?

 確かにこのスピードでは神剣で斬るのは至難の業だ。

 だけど漆黒の牙シュヴァルツファングの攻撃も俺には当たらないぞ。

 移動スピードは凄まじいものがあるけど、攻撃に関しては先程と変わらい。

 どうやら疾風迅雷は、移動スピードが上がるだけで、攻撃スピードが上がる訳ではなさそうだ。

 この後、互いに決め手がなく、膠着時間が続いた。

 しかし俺達の第一目的は、レーベンの実を早く手に入れることなので、この状態は好ましくない。


「ゴホッゴホッ! ゴホッゴホッ!」


 俺は激しく咳を放ちながら、神剣を構える。

 こちらはまだ漆黒の牙シュヴァルツファングに全くダメージを与えることが出来ていない。このままだとこちらが不利だ。

 そしてしばらくの間、ただ漆黒の牙シュヴァルツファングの攻撃を防ぐ時間が続くのであった。








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